【第6週】役員の損害賠償責任とは
2026.03.31

理事長・施設長様
株式会社幼保支援 法人運営支援/施設DX推進担当の大田黒です。
「地域福祉のためになるなら」と、志を持って社会福祉法人の理事や監事を引き受けてくださっている皆様、日々の業務、本当にお疲れ様です。
今の社会福祉法人は、かつてのような「地元の名士が集まる名誉職」でありつつも、法改正を経て、株式会社と同等、あるいはそれ以上の厳格なガバナンスが求められる時代になりました。
「私は名前を貸しているだけの理事だから」 「現場の手続きや申請はすべて事務長に任せているから、細かいことは分からない」
もし、その様な状態であれば、少し危険な状態です。経営上の重大なミスや不正を見過ごした場合、責任を取らなければならないリスクがあるからです。
この記事では、皆様がご自身の身を守り、安心して法人の経営に専念できるよう、法律上の責任範囲と正しい「守り方」について分かりやすく解説していきます。
タイトル
1. 「善管注意義務」と「忠実義務」
2.なぜ「連帯責任」になるのか
3.注意して頂きたい3点
4.役員を守るための防衛策と、これからの法人運営
5.「リスク管理」は「情報の可視化」から
1. 「善管注意義務」と「忠実義務」
社会福祉法人の役員と法人は「委任契約」という関係にあります。これにより、役員には大きく分けて2つの重い義務が課せられます。
善管注意義務:社会福祉法第38条(社会福祉法人と評議員、役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う)=「善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務(=善管注意義務)」
忠実義務:社会福祉法第45条の16-1(理事は、法令及び定款を遵守し、社会福祉法人のため忠実にその職務を行わなければならない。)
難しい言葉ですが、「責任持つ立場として、法人に損害を与えないよう細心の注意を払い、法人の利益を第一に考えて行動する必要がある」ということです。
ここでのポイントは、「自分から悪いことをしない」だけでは義務を果たしたことにならない、という点です。「おかしいな?」と思ったのに漫然と見過ごした、「これってどういうこと?」と質問すべき時に黙っていたことも、立派な義務違反(任務懈怠)となる可能性があります。
具体的に、この義務を果たすためには、以下のような手順を踏む必要があります。
1.事前準備:理事会の前に配布された資料や議案に必ず目を通す。
2.出席と質問:理事会に出席し、不明点やリスクについて質問する。
3.納得と決議:説明に納得できた場合のみ、決議に賛成する。
2.なぜ「連帯責任」になるのか
では、実際にどのような流れで役員個人の責任が問われるのでしょうか。
1.損害の発生:例えば、一部の理事による横領が発覚した、あるいは無謀な設備投資により法人が多額の負債を抱えたとします。
2.状況の調査:裁判や行政監査において、「なぜ防げなかったのか」が厳しく問われます。「ずさんな管理体制を放置していた」「理事会で誰も異議を唱えなかった」となれば、役員の義務違反が疑われます。
3.連帯責任の追及:損害賠償の責任は、不正を働いた本人や主導した理事長だけが負うわけではありません。「その議案に賛成した理事」や「チェック機能を果たさなかった監事」全員が、連帯して損害を賠償する責任を負う仕組みになっています。
第四十五条の二十
(役員等又は評議員の社会福祉法人に対する損害賠償責任)
理事、監事若しくは会計監査人(以下この款において「役員等」という。)又は評議員は、その任務を怠つたときは、社会福祉法人に対し、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。
過去の判例でも、「事務長に完全に任せきりで、理事会が形骸化していた」ケースにおいて、不正に直接関与していない理事や監事に対しても、監視義務を怠ったとして損害倍書を求められた事例が存在します。「知らなかった」は、法廷では通用しないのです。また、職員の不祥事などで「第三者(利用者や取引先)」に損害を与えた場合も、役員に悪意や重大な過失(少し注意すれば防げたのに放置した等)があると認められれば、役員が直接被害者に賠償する責任を負います。

過去に複数回の転倒事故が発生していたという客観的事実が存在していたが、それにもかかわらず、理事会において具体的な安全防止マニュアルの改定や設備投資を行わなかったとして、利用者から安全体制構築義務を行ったとして損害賠償を求められるといったことが考えられます。
3.注意して頂きたい3点
実務の中で、理事長や事務長、そして各理事がついやってしまいがちな「NG行動」を3つ挙げます。これらは行政監査でも必ずチェックされるポイントです。
NG1:善管注意義務の放棄
議案内容を十分に確認せず安易に賛成することは、法人にとって必ずしも有益とは言えません。第三者としての視点から意見を述べることで、職務執行者のみでは見落とされがちなリスクや課題が明らかになる場合もあります。
NG2:監事の形骸化(お友達人事)
「うるさいことを言わないから」という理由で監事を選任していませんか? 監事は法人の監査役であり、理事の職務執行を厳格にチェックする役割です。むしろ厳しくみてくれる人が法人にとってはありがたい存在になります。
NG3:不祥事やクレームの「報告の欠如」
不祥事やクレームに関する報告の欠如も問題となります。現場で発生した事故や、利用者からの重大なクレームについて、「事を大きくしたくない」との理由で理事会への報告を行わないケースが見受けられますが、問題共有の観点からも望ましい対応とは言えません。
4.役員を守るための防衛策と、これからの法人運営
脅かすようなことばかり書いてしまいましたが、正しい運営と、対策を行えば恐れる必要はありません。役員の身を守るための具体的な案をお伝えします。
議事録への「反対意見」の明記
理事会で疑問を感じたり、リスクが高いと判断したりした場合は、勇気を持って反対するか、条件を提示してください。そして最も重要なのは、「自分の反対意見や懸念を、必ず議事録に記載してもらう」ことです。議事録に異議をとどめない者は「賛成したものと推定する」可能性があります。議事録は役員を守る盾となります。
役員賠償責任保険(D&O保険)への加入
役員が業務上の判断ミスなどで損害賠償請求を受けた場合、その賠償金や争訟費用(弁護士費用など)を補償してくれる保険です。所定の手続きを経れば、法人が保険料を負担することが可能です。これにより、外部の優秀な人材も安心して理事に就任してもらうことができます。
5.「リスク管理」は「情報の可視化」から
ここまでお読みいただき、「理事の責任が重いのは分かったけれど、毎回の理事会でそこまで細かく書類や議事録をチェックしたり、過去の経緯を遡って確認したりするのは、正直、手作業では大変すぎる……」と思われたのではないでしょうか?
現場の手続きの煩雑さに追われ、本来の議論に時間が割けない。特定の事務担当者にしか分からないブラックボックス化した業務がある。これこそが、社会福祉法人の皆様が抱える最大の悩みですよね。
実は、この「言った・言わない」のリスクや、確認漏れといった人的ミスは、自社の業務効率化SaaSを導入することで劇的に改善できます。
私たちの提供するシステムでは、社会福祉法人特有の複雑な書類作成や手続き管理をクラウド上で一元管理できます。
過去の議事録の参照が簡単:言った言わないのトラブルを防ぎ、いつでも根拠を確認しながら安全な経営判断が下せます。また、一部の担当者に業務が偏るのを防ぎ、理事全員が透明な情報にアクセスできる健全な環境が整います。
