【第7週】利益相反取引で監査を通過するためには

【第7週】利益相反取引で監査を通過するためには

2026.04.15

【第7週】利益相反取引で監査を通過するためには
ココ+ナビ

理事長・施設長・事務長様
株式会社幼保支援 法人運営支援/施設DX推進担当の大田黒です。
今週のテーマは、行政監査でも非常に厳しくチェックされる「利益相反(りえきそうはん)」です。
理事長ご自身や親族、あるいは関連企業との取引において、法人を守り、かつ役員個人の損害賠償リスクを回避するための「承認プロセス」と「そのまま使える議事録の記載例」を、実務に即して徹底的に解説します。

1. はじめに:法人のための契約が公私混同と疑われるリスク

社会福祉法人の理事長、そして実務を最前線で回されている事務長の皆様、日々の複雑な手続きや行政監査への対応、そして終わりの見えない議事録作成、本当にお疲れ様です。福祉の現場に集中したいのに、なぜこれほどまでに厳格な書類作業や手続きが求められるのかと、頭を抱えることも多いのではないでしょうか。

さて、今週のテーマは「利益相反(りえきそうはん)」です。少しお堅い言葉ですが、皆様の法人でも、事業を拡大したり施設の修繕を行ったりする際に、以下のようなケースに心当たりはありませんか?

  • 「新しいグループホームを建てたいが、近隣に適当な土地が見つからない。たまたま理事長が個人の土地を所有しているから、それを法人で買い取ろう(または借りよう)。」
  • 「施設の修繕が必要だが、急ぎなので、理事が経営している地元の建設会社にそのまま発注しよう。」
  • 「法人の資金繰りが一時的に厳しいため、理事長個人から法人へ無利息で資金を貸し付けよう。」

一見すると、どれも法人の事業継続や拡大のためのスピーディーで合理的な提案に思えます。特に、「理事長が、法人のために一肌脱ぐ」という形で、こうした取引が善意で行われることが多々あります。

しかし、法律や監査の観点から少し立ち止まってください。例えば「理事長個人の土地を法人が買う」という契約において、理事長個人の立場からすれば「少しでも高く売りたい」、法人の立場からすれば「少しでも安く買いたい」というのが本来の経済原則です。ここで、理事長の心の中で「個人の利益」と「法人の利益」がぶつかってしまう状態になります。

社会福祉法人は、税制上の優遇措置や補助金を受けて公的な福祉サービスを提供する存在です。もし、このまま理事長が自分自身の判断だけで契約書にハンコを押してしまったらどうなるでしょうか?
いくら法人のためを思って「相場より安くした」つもりでも、客観的な証拠と正しい手続きがなければ、第三者や所轄庁の監査担当者からは「自分の土地を法人に不当な価格で買い取らせて、身内びいきをしているのではないか?」と疑われる原因になります。

この記事では、行政監査を問題なくクリアし、理事長ご自身と法人の身を守るための「承認プロセス」と、実務でそのまま使える「議事録の書き方」を分かりやすく徹底解説します。


2. 利益相反取引とは何か?(対象となる取引の具体例)

社会福祉法第45条の16第4項(一般社団・財団法人法第84条の準用)により、理事が法人と一定の取引を行う場合は、理事会における事前の承認が義務付けられています。対象となる取引は、大きく分けて「直接取引」と「間接取引」の2種類があります。

  • ① 直接取引(理事が当事者として法人と取引すること)
    ・理事長が所有する土地・建物を法人が買い取る、または賃借する。
    ・理事が経営する株式会社(理事が代表取締役を務める企業等)へ、法人が施設の清掃業務や修繕工事を発注する。
    ・法人から理事に対して金銭を貸し付ける、または理事から法人へ金銭を貸し付ける。
  • ② 間接取引(理事が他人のために法人と取引すること、または法人と理事の利益が対立する取引)
    ・理事長個人の銀行からの借入金に対して、法人が連帯保証人になる。
    ・法人が理事長個人の債務を肩代わりして返済する。

これらの取引を行う場合、「理事長(あるいは理事)の会社だから安く融通してくれるし、問題ないだろう」と考えてしまいますが、理事会で「重要な事実を開示」し、事前の承認を得ることが法的な義務となります。


3. 監査対策の要:承認プロセスの完全フロー(5ステップ)

では、具体的にどのような手順で進めれば、後から決議の無効を訴えられたり、行政監査で指摘されたりするリスクを防げるのでしょうか。実務のフローを5つのステップで詳細に確認していきましょう。

  1. 重要事実の開示と客観的資料の準備

    取引を行おうとする理事は、理事会において取引の内容(物件、金額、条件、なぜこの取引が法人に必要なのか)を詳細に説明しなければなりません。この時、最も重要なのが「価格の妥当性を証明する客観的な資料」です。

    例えば不動産の売買であれば、「不動産鑑定士による鑑定評価書」や、「近隣相場との比較」が必須です。工事の発注であれば「複数社からの相見積もり」が必要です。「相場通りです」「安くしてもらっています」という口頭説明だけでは、他の理事が妥当性を判断できず、監査において「承認の根拠が不十分」と指導されます。

  2. 理事会の招集と定足数の確認

    当該議案を審議するための理事会を招集します。ここで極めて重要なルールがあります。利益相反取引の当事者となる理事は「特別利害関係人」となり、その議案の定足数(会議を成立させるための必要人数)の計算から除外されます。

    例えば、理事が全部で6名の法人の場合、通常は過半数の「4名」の出席で理事会が成立します。しかし、1名が特別利害関係人となる議案では、全体の数が5名として計算され、定足数はその過半数の「3名」となります。定足数を満たさずに決議を行うと、決議自体が無効となるため事前の人数確認が不可欠です。

  3. 特別利害関係人の「退席」(※重要ポイント)

    議案の審議および採決が始まる前に、当事者である理事(理事長など)は必ず会議室から一時退席します。

    法律上は「議決に加わることができない」と規定されていますが、監査の観点からは「同席しているだけで、他の理事に対する無言の圧力となり、公正な審議が阻害される」とみなされます。監査のためではなく、「反対意見を言いやすい環境」を物理的に作るために、退席は必須のプロセスと認識してください。。

  4. 審議・決議

    退席後、残った理事たちで客観的資料に基づき、「本当にこの取引が法人にとって必要か」「価格や条件は法人の不利益にならないか」を議論し、出席理事の過半数(または定款で定めた割合)で承認の決議を行います。

    この際、承認した理事たちも「善管注意義務(役員として当然払うべき注意)」を負うことになります。漫然と賛成するのではなく、疑義があれば質問し、議論した過程を残すことが求められます。

  5. 取引の実行と事後報告

    「理事会で事前承認をもらったから、あとは自由にやっていい」わけではありません。実際に契約がいくらで結ばれ、いつ完了したのかという「結果」を遅滞なく報告するまでがセットとして義務付けられています。「遅滞なく」とは、取引完了後、物理的に開催可能な最初の理事会(次回の定例理事会など)で報告することを指します。

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退席のルールや定足数の再計算は、実務上非常に見落としやすいポイントです。「いつものメンバーだから」と議長(理事長)が座ったまま審議を進めてしまうと、後から監査で「適正な決議とは認められない」と指摘される大きな原因になります。少し手間に感じても、このステップだけは厳守してくださいね。


4. 行政監査での指摘事例と、絶対に避けるべきNG行動

ルールは理解していても、日々の忙しさから実務上でついやってしまいがちな失敗があります。行政(所轄庁)の指導監査において、実際に厳しく指摘されやすい2つの落とし穴をお伝えします。

⚠ NG例1:ルール違反となる「事後承認」

現場で最も多く、かつ最も危険なのが「急いでいたから先に契約書にハンコを押して事業を進め、事後報告として次の定例理事会で承認をもらう」というケースです。

法律は明確に「事前承認」を求めています。契約書の日付よりも前に、必ず理事会での承認決議がなされていなければなりません。事後承認を行った場合、その契約は手続き上の瑕疵があるとして無効とされるリスクがあります。

さらに恐ろしいのは、もしその取引によって法人が経済的損害を被った場合、当該理事だけでなく、事後承認に賛成した他の理事も連帯して「任務懈怠(にんむけたい)による損害賠償責任」を問われる可能性があるという点です。必要であれば臨時理事会を開催するなどして、必ず順番を守ることが役員全員を守ることに繋がります。

⚠ NG例2:議事録への「記載漏れ」

せっかく正しい手続き(開示、退席、客観的審議)を踏んでも、それが議事録に正確な文章として残っていなければ、監査担当者には「適正な手続きを行っていない」と判断されてしまいます。人間の記憶ではなく、書面が全てです。特に抜けやすい必須記載事項は以下の3点です。

  • 「利益相反取引に関する事実の開示があったこと」
  • 「特別利害関係人が誰であるか」
  • 「該当理事が審議・決議の前に退席したという事実」(最も見落とされやすい)

特に、3つ目の「退席した事実」が明記されていない議事録は非常に多く見受けられます。これらが抜けていると、適正な手続きだったのかどうかが書面から読み取れず、口頭指摘や改善報告書の提出を求められる原因になります。※私自身の考えですが、退室の事実記載がないだけで文書指摘を行うのは過剰かなと思われます。


5. 【保存版】そのまま使える!議事録の具体的な記載フォーマット

「では、具体的にどのように議事録を書けば監査をクリアできるのか?」
事務担当者の皆様が最も知りたいポイントだと思います。ここでは、理事長所有の土地を法人が買い取るケースを想定した、模範的な議事録の記載例をご紹介します。ぜひ、貴法人のフォーマットに合わせて活用してください。

📄 議事録 記載例(利益相反取引の承認)

第〇号議案 不動産売買契約(利益相反取引)承認の件

理事長より、新たに建設予定のグループホーム用地として、下記の土地を取得したい旨の提案があった。続いて議長より、本議案は理事長個人が売主となる不動産売買契約であり、社会福祉法に定める利益相反取引に該当するため、同理事が特別利害関係人となる旨の説明があった。

理事長 〇〇〇〇は、本議案の特別利害関係人に該当し、本議案の審議および決議に参加できないため、定款の規定に基づき理事△△△△が本議案の議長を代行することとし、理事 〇〇〇〇は退席した。

議長代行より、別添の不動産鑑定評価書および周辺取引事例との比較資料に基づき、本件土地の取得価格が市場価格に照らして適正であり、法人にとって不利益とならない妥当な取引である旨の詳細な説明が行われた。

(審議の経過:〇〇理事より、取得後の運用計画について質疑があり、事務局より回答が行われた等、議論の過程を簡潔に記載)

慎重に審議した結果、本取引は法人の事業運営において必要かつ有益であり、取引条件も適正であると認められたため、議長代行が議場に賛否を諮ったところ、出席理事(特別利害関係人を除く)の全員一致をもって、原案どおり承認可決された。

その後、理事長 〇〇〇〇は議場に再入室し、議長に復帰した。

ポイントは、「開示」「誰が議長代行をしたか」「客観的資料に基づく審議」が一本の線で繋がって記録されていることです。これにより、手続きの透明性が完全に証明されます。


6. 利益相反取引に関する実務Q&A

ここでは、法人の運営支援を行う中で、実際に現場の理事長や事務長からよく寄せられる疑問にお答えします。

  • 理事長個人から法人への「無償の寄付」や「無利息・無担保での貸付」の場合も、承認の手続きは必要ですか?

    原則として、法人にとって純粋に利益のみとなる取引であれば、利益相反取引の承認は不要と解されています。法人に義務や負担が発生しないためです。

    しかし、「寄付を受ける代わりに、〇〇の条件を付ける」など、法人に少しでも負担や義務が生じる場合は承認が必要です。また、無利息の貸付であっても、返済期限が法人の資金繰りを圧迫することが考えられる、透明性を保つ意味で理事会に報告・承認を得ておく方が安全です。

  • みなし決議(書面決議)で利益相反取引を承認することはできますか?

    実務上、非常にリスクが高いため推奨されません。

    みなし決議(決議の省略)は、「理事全員の同意」と「監事全員の異議なし」が要件です。しかし、特別利害関係人は議決に加われないため、同意の意思表示ができません。解釈によっては「特別利害関係人を除く全員の同意で可能」とする見解もありますが、複雑な法解釈を伴い監査でのトラブルになりやすいため、利益相反議案については必ず実際に理事会(オンライン含む)を開催して審議を行うべきです。

  • 理事の配偶者が代表を務める会社との取引は、利益相反に該当しますか?

    「間接取引」に該当する可能性が高いため、承認手続きを経るのが賢明です。

    法律上の直接取引は「理事が代表を務める会社」ですが、配偶者や親族の会社との取引において、法人の利益を損なって身内企業に利益を誘導していると見なされれば、実質的な利益相反と問われます。疑義を招かないためにも、市場価格との比較資料を揃え、理事会でオープンに承認を得る手順を踏んでください。


7. まとめ:適正な手続きは、法人と理事長を守るためにある

自分の土地や資金を、法人の地域貢献のために提供するだけなのに、わざわざ高いお金を払って不動産鑑定書を取り、自分が会議室から退席してまで、細かく議事録を作らなければならないなんて……。現場を支える理事長や事務長が、その手間の多さにため息をつきたくなるお気持ちは痛いほどよくわかります。

しかし、この厳格な手続きは、他ならぬ理事長ご自身や役員の方々、そして法人を守ります。

法人の代表が変わったり、数年後に行政から厳しい監査が入ったりした際、「あの時の取引は本当に適正だったのか?」「理事長が自分の利益のために法人を利用したのではないか?」と外部から問われることがあるかもしれません。その時、個人の記憶や口約束は証拠になりません。完璧な手続きのプロセスと、それを克明に記した議事録が残って初めて、自信を持って客観的な正当性を証明することができるのです。

手続きの透明性を確保し、確実な記録を残すことは、地域社会から信頼される社会福祉法人運営の土台となります。皆様の法人では、こうした利益相反が起こりうる契約の際、どのようなルールで進行・記録をされていますでしょうか?少しの手間を惜しまず、クリアな運営体制を一緒に構築していきましょう。

次回も、法人の運営や手続きに関する実践的で役に立つポイントをお届けします。どうぞお楽しみに。

大田黒 健太 法人運営支援・施設DX推進

Kenta Ootaguro

熊本出身
法人運営支援を主として、ICTシステム導入・認可申請支援・WEBサイト企画・認定こども園移行支援等、保育事業の幅広い支援をおこなう。

社会福祉法人支援システム ココ+ナビ プロジェクトリーダー