【第8週】内部統制システムの構築と実践

【第8週】内部統制システムの構築と実践

2026.04.16

【第8週】内部統制システムの構築と実践
ココ+ナビ


理事長・施設長・事務長様
株式会社幼保支援 法人運営支援/施設DX推進担当の大田黒です。
「内部統制システムの構築」と聞いて、少しハードルが高いと感じている事務長様はいらっしゃいませんか?今回は「内部統制システムの構築義務と実践」をテーマに、現場で無理なく進められる規程づくりや体制づくりを一緒に見ていきましょう。


1. 基礎知識:内部統制って、大企業だけの話だと思っていませんか?

内部統制(Internal Control)という言葉の響きから、どうしても上場企業や大規模な医療法人などをイメージしがちです。しかし、社会福祉法人においても、これは決して無関係ではありません。

社会福祉法では、事業収益が30億円を超える、あるいは負債が60億円を超えるような大規模法人を特定社会福祉法人と称し、会計監査人の設置義務と内部統制システムの構築を法律で義務付けています。では、それ以下の規模なら不要かというと、そうではありません。すべての理事には法人の業務を適正に行うための「善管注意義務」があり、理事会には「理事の職務の執行の監督」という役割が課せられています。規模に関わらず、組織を適正に運営・監視する体制づくりが推奨されています。

内部統制とは、難解なシステムを導入することではなく、「法人が、組織として当たり前に機能するためのルールと仕組み」を作ることです。厚生労働省のガイドライン等において、内部統制は以下の「4つの目的」を達成するために存在すると定義されています。

  • 業務の有効性・効率性: 現場の業務に無駄がなく、適正に福祉サービスを提供できているか。
  • 財務報告の信頼性: 補助金の不適切な受給や経理のミスがなく、決算書が正しく作られているか。
  • 事業活動に関わる法令等の遵守: 労働基準法や児童福祉法、老人福祉法など、関連する法律や基準を守っているか。
  • 資産の保全: 法人の預貯金や現金、利用者の個人情報が適切に管理されているか。

そして、これら4つの目的を絵に描いた餅にせず、確実に達成するために法人が備えておくべき「6つの基本的要素」が定められています。

  • 1. 統制環境: 理事長の誠実な姿勢や法人の基本理念など、すべての土台となる組織風土。
  • 2. リスクの評価と対応: 運営上のどんなリスク(事故、不正、災害など)があるかを洗い出し、どう対応するかを決めること。
  • 3. 統制活動: 職務権限規程の整備や、現金の複数名チェックなど、リスクを減らすための具体的な業務ルール。
  • 4. 情報と伝達: 現場のヒヤリハットやクレームといった「ネガティブな情報」が、滞ることなくトップまで正しく伝わるルートがあるか。
  • 5. モニタリング(監視活動): 作ったルールが現場で本当に守られているかを、監事や内部監査担当者が継続的にチェックすること。
  • 6. ITへの対応: 介護・保育システムや会計ソフトの適切なアクセス権限管理、および情報漏洩対策。

特に福祉や保育の現場で課題になりやすいのは、「4. 情報と伝達」の不備と、それをサポートする「5. モニタリング」の不足です。現場で不適切ケアの疑いが生じた時、「理事長に知られると怒られるかもしれない」と現場だけで抱え込んでしまうケースが少なくありません。これが、後に行政監査で発覚した際、法人運営の大きなリスクとなってしまいます。


2. 「指揮命令系統」が機能していない現場の落とし穴

「うちの職員はみんな真面目だから、問題なんて起きないよ」。こうおっしゃる理事長は多いですが、経営において「性善説」だけに頼るのは少し心配な面があります。これは先ほどの6つの要素のうち、すべての土台となる「1. 統制環境」に対する組織的な意識が少し不足している状態とも言えます。

私が過去に関わったある法人での実例をお話しします。この法人では、理事長が現場の運営を施設長に全面的に任せていました。ある日、施設長が独自の判断で高額な遊具や備品を特定の業者から購入し続けていたこと、さらに理事長の承認を得ずに職員を採用し、人件費が予算を超過していたことが発覚しました。理事長がその事実に気づいたのは、年度末の決算処理で事務長から報告を受けた時でした。

これは、誰が何をどこまで決めて良いのかというルール、つまり「3. 統制活動」が曖昧になっていたことが原因です。

内部統制の第一歩は、「職務分掌(誰が何をやるか)」と「決裁権限(誰がいくらまで決めていいか)」を明文化することです。具体的には以下のようなルールを規定として定めます。経理規程ではおなじみかもしれません。

  • 10万円未満の消耗品購入は施設長の決裁で可とする。
  • 10万円以上〜100万円未満の物品購入や契約は、稟議書を作成し理事長の決裁を必要とする。
  • 100万円以上は、理事会の承認(決議)を必須とする。

こうしたルール(規程)を定めた上で、それが本当に現場で守られているかをチェックする仕組みがあって初めて、組織は円滑に回ります。現場への全面的なお任せは、組織としてのチェック機能が働いていないと見なされる可能性がある点に注意が必要です。


3. 監査対策の要:内部統制システムを機能させる4つのステップ

それでは、具体的にどのように内部統制システムを構築し、適切に対応できる状態を作ればよいのでしょうか。先ほどの「6つの要素」に沿って、以下のステップで進めることで、「この法人は仕組みが機能している」と評価される体制が整います。

  1. リスクの洗い出しと現状把握(2. リスクの評価と対応)

    まずは、法人の各事業所でどのようなリスクが潜んでいるかを確認します。現金の管理体制(金庫の鍵は誰が持っているか)、勤怠管理(サービス残業が常態化していないか)、利用者への対応(不適切ケアの兆候はないか)など、事務長や施設長を中心にヒアリングを行い、対応すべき優先順位を決めます。

  2. 各種規程の整備とアクセス管理(3. 統制活動 / 6. ITへの対応)

    洗い出したリスクに対応するため、「職務権限規程」や「経理規程」を実態に合わせて改定し、必ず理事会で承認(決議)をとります。同時に、会計ソフトや介護・保育記録システムの「パスワードの使い回し」がないか、退職者のアカウントが残ったままになっていないかなど、IT環境のルールも整備します。

  3. 内部通報窓口の設置と周知徹底(4. 情報と伝達)

    職場の悩みや不適切な事案は、通常の指揮命令系統では、途中で情報が止まってしまうことがあります。そこで、通常のラインとは別の「内部通報制度」を準備します。窓口は監事や外部の顧問弁護士などを指定し、全職員に対して「相談・通報によって不利益な扱いを受けることはない」と安心してもらえるよう伝えます。

  4. 監事による業務監査と理事会への報告(5. モニタリング)

    仕組みを作って終わりではありません。それが運用されているかを継続的にチェックするのが「モニタリング」です。監事は定期的に施設を巡回し、書類を閲覧し、職員と話します。そして、理事会等で「内部統制システムの運用状況」について報告を受け、監査報告書を作成します。このサイクルを回すことで内部統制が整っていきます。


4. 注意!行政監査で指摘されやすいNG行動

実務の現場でつい見落としがちですが、行政の指導監査で指摘されやすいポイントをまとめました。これらに当てはまる場合は、体制の機能不全とみなされやすいため、見直しをおすすめします。

⚠ 監査で指摘されやすいNG行動ワースト3

1. 「問題は何も起きていません」という実態と合わない報告(5. モニタリングの機能不全)
理事会や監事監査の場で、「今期のヒヤリハットや事故はゼロでした」と報告していませんか?人間が運営している福祉施設で、1年間トラブルやミスが全くないことは多くはありません。ゼロという数字は素晴らしいですが、「情報を上げる仕組み(4)が機能していないのでは」「言い出しにくい雰囲気があるのでは」と懸念を持たれてしまうかもしれません。小さな気づきを拾い上げている事実こそが、健全な証拠です。

2. 現金とシステム権限の単独管理(3. 統制活動 / 6. ITへの対応の欠落)
利用者の預かり金や小口現金を、事務員1人だけで管理している状態です。また、通帳と印鑑を同じ担当者が保管するのはNGです。システム上での承認権限(パスワード)を事務員と施設長で使い回しているケースもリスクが高い状態です。必ず「処理する人」と「承認・確認する人」を分ける(職務の分離)ルールにしてください。トラブルの多くは、こうした単独管理の環境から生まれます。なかなか自分が処理したことを確認しても間違いに気づきにくいものです。

3. 実態の伴わない「内部通報窓口」(4. 情報と伝達の不備)
内部通報窓口の担当者が「施設長」や「理事長」に設定されているケースです。これでは、その担当者に関わる事案が起きた際に、誰も通報しづらくなってしまいます。通報窓口は、必ず独立性のある第三者(監事や外部専門家)を含めることが望ましいです。


5. 【保存版】そのまま使える実務フォーマット・記載例

「そうは言っても、規程や周知文をイチから作るのは負担が大きい…」という事務長のために、そのままアレンジして使えるテンプレートをご用意しました。ワードやExcelに貼り付けて、法人名などを書き換えてご活用ください。

📄 【テンプレート1】職務権限規程の抜粋(統制活動の明文化)

(目的)
第〇条 この規程は、社会福祉法人〇〇会における業務の執行権限と責任を明確にし、業務の適正かつ効率的な運営を図ることを目的とする。

(決裁権限)
第〇条 業務の決定にあたっては、以下の基準に従い決裁を受けなければならない。

【物品の購入・修繕契約】
・1件 10万円未満: 施設長決裁(※事後、月次報告等で理事長へ報告)
・1件 10万円以上 100万円未満: 理事長決裁(※稟議書による事前承認)
・1件 100万円以上: 理事会決議

【職員の採用】
・正規職員の採用: 理事長決裁(※面接は施設長と同席)
・パート・アルバイト等の採用: 施設長決裁(※採用計画の枠内に限る)

📄 【テンプレート2】内部通報窓口設置の職員向け周知文(情報と伝達の確保)

令和〇年〇月〇日
全職員の皆様へ
社会福祉法人〇〇会 理事長 〇〇 〇〇

内部通報(コンプライアンス相談)窓口の設置について

当法人では、利用者への安全なサービス提供と、職員が安心して働ける職場環境を守るため、「内部通報規程」に基づき、相談・通報窓口を設置しています。
業務の中で、「法令違反ではないか」「不適切ケアの疑いがある」「ハラスメントを見かけた」など、通常の報告ライン(上司や施設長)には相談しづらい事案を発見した場合は、一人で抱え込まずに以下の窓口へご連絡ください。

【相談・通報窓口】
1.法人内窓口: 監事 〇〇 〇〇(連絡先:xxx-xxxx-xxxx / メール:xxx@xxx.com)
2.外部窓口: 〇〇法律事務所 弁護士 〇〇 〇〇(連絡先:xxx-xxxx-xxxx)

※相談者の秘密は厳守されます。
※相談・通報したことを理由に、人事評価での不当な扱いや解雇など、いかなる不利益な取り扱いも行うことはありません。
※匿名での相談も受け付けますが、事実関係の調査や結果のフィードバックのために、できる限り実名でのご連絡をお願いいたします。


6. 現場からのSOS!実務Q&A

法人の事務担当者様からよくいただく、実務上のリアルな疑問にお答えします。

  • 「6. ITへの対応」とありますが、システムに詳しくない小さな施設では具体的に何をすれば良いですか?

    高度なセキュリティシステムを導入する必要はありません。日常業務の中で、以下の3点を見直すだけでも立派な「ITへの対応」になります。
    1. 介護・保育ソフトのアカウント(IDとパスワード)を職員間で使い回さない。
    2. 退職した職員のアカウントは、退職日当日に速やかに削除または停止する。
    3. 利用者の個人情報が入ったUSBメモリ等を施設外へ持ち出さないルールを作る。
    これらを徹底するだけでも、情報漏洩のリスクを大きく減らすことができます。

  • 内部通報窓口を設置したいのですが、外部の弁護士に依頼する予算がありません。どうすれば良いですか?

    予算の都合で外部専門家に依頼できない場合は、まず法人の「監事」を窓口に設定するのが一般的です。監事は理事や施設長から独立した立場で監査を行う役割があるため、通報先として適任です。また、地域の社会福祉協議会や、所属している職能団体(老人福祉施設協議会、保育協議会など)が合同で設置している相談窓口を活用できるケースもありますので、一度確認してみてください。

  • 監査が近いのですが、職務権限規程が古いままで現場の運用と合っていません。急いで直すべきですか?

    「規程と実態が合っていない(モニタリングで課題が放置されている)」状態は、監査では発覚しずらく、そもそも、そこまで見られることも多くないかと思いますが、状態としては良くありません。まずは実態に合わせて規程の改定案を作成し、直近の理事会で承認を得ることを目指しましょう。


7. この記事のまとめ:良い人は、良い仕組みの中で育つ

日々のケアや利用者対応を第一に考えられる中で、規程作りや議事録の整備に時間を割くのは本当に大変なことですよね。

しかし、万が一トラブルが起きた時、精度設計が甘いことが理由で職員を指摘しなければならない状態は管理者も好ましくないのではないでしょうか。誰もが悪意なくミスをしてしまうかもしれない現金のルーズな管理環境。忙しさを理由に、問題行動を止められない組織風土。これらを整えないまま、いざ問題が起きた時に職員個人の責任にするのは、少し酷かもしれません。

「職員がミスや不正をしてしまわないような仕組み」を作ること。それこそが、経営者から職員への大切な思いやりではないでしょうか。

内部統制の4つの目的と6つの要素は、決して職員を縛り付けるためのものではありません。職員をリスクから守り、安心して目の前の利用者に向き合える環境を作るための「サポート体制」なのです。まずは、法人の規程が今の時代や実態に合っているか、棚卸しをするところから始めてみませんか?