【第9週】監査の最新トレンド

【第9週】監査の最新トレンド

2026.05.02

【第9週】監査の最新トレンド
ココ+ナビ

理事長・施設長・事務長様
株式会社幼保支援 法人運営支援/施設DX推進担当の大田黒です。
「毎年やってくる指導監査、準備のたびにヒヤヒヤする…」「手続きが多すぎて、現場の業務が回らない…」そんなお悩み、ありませんか?
今回は、令和5・6年度の指導監査データを徹底分析し、行政が目を光らせている「見られるポイント」をまとめました。監査直前に慌てて書類を作るのではなく、日常業務の中で自然と対策ができるノウハウをお伝えします。


1. 指導監査の最新トレンド:どこが狙われているのか?

指導監査の対策と聞くと、「面倒だが書類を完璧に揃えなきゃ」と身構えてしまいますよね。でも、行政の担当者も闇雲に書類をめくっているわけではありません。過去の指摘事項データを見ると、彼らが重点的にチェックしているポイントがと浮かび上がってきます。

令和5・6年度の指導監査指摘事項データを分析すると、大きく分けて以下の3つのカテゴリでミスが多発していることがわかります。

  • 経理・会計ルールのポイント(経理規程違反の契約、委託費の目的外使用など)
  • 理事会・評議員会運営の適法性(定足数不足、招集手続きのミス、役員構成の不備)
  • 議事録の不備(署名漏れ、作成者氏名の記載漏れなど)

特に目立つのが、法人で定めたルール(定款や経理規程)を、現場の運用が無視してしまっているケースです。定款に、議事録には記名押印と記載があるのに、署名押印していたり、利用者から現金で徴収したお金を、経理規程に記載している期間以上事務所に保管してたなど、ここの整合性が取れているかは要チェックです。

法律や定款に基づいた知識をしっかり押さえておかないと、悪気がなくても監査で指摘を受けてしまいます。まずは、自法人の「経理規程」と「定款」が今どうなっているのかを確認することがスタート地点になります。


2. 監査に引っかからないための日常業務手続きフロー

指導監査の対策は、監査の1ヶ月前から始めるものではありません。日常の業務フローの中に、チェックポイントを組み込んでしまうのが一番ラクで確実な方法です。
ここでは、指摘が多い「契約」と「理事会運営」について、実務ベースのフローをステップ形式で解説します。

  1. 契約前:経理規程の「限度額」と「決裁権限」を必ず確認する

    物品の購入や工事の発注を行う際、見積もりを取る前に「法人の経理規程」を開いてください。金額に応じて「理事長専決でよいか」「理事会の承認が必要か」、そして「随意契約でよいか」「競争入札が必要か」が明記されています。理事長の専決可能額を超えているのに、理事会を通さず契約してしまうミスが非常に多く指摘されています。

  2. 理事会開催前:適切な「招集手続き」を行う

    理事会を開催する場合、原則として開催日の1週間前までに全理事・監事へ招集通知を発出する必要があります。これを省略できるのは「理事および監事の全員が同意したとき」のみです。
    新役員を選任した同日に理事会を開く場合など、招集を省略した記録を残していないといった事務的ミスも頻発しています。誰に、いつ通知を出したかの記録を残すことが重要です。

  3. 理事会・評議員会終了後:速やかに議事録を作成し、押印を得る

    会議が終わったら、記憶が新しいうちに議事録を作成します。監査でよく見られるのが、「議事録の作成に係る職務を行った者の氏名」の記載漏れです。誰がこの議事録を作ったのか、末尾に必ず記載するルールを徹底してください。また、出席した理事や監事の署名・記名押印が揃って初めて、議事録として完成します。


3. 実務でやりがちなNG行動3選

ここからは、実際のデータに基づいた「これをやったら確実に指導が入る」というNG行動をご紹介します。思い当たる節がないか、胸に手を当てて確認してみてください。

⚠ NG行動1:限度額を超えているのに「随意契約」で済ませる

「この工事は専門性が高いから、相見積もりを取らずにいつものA社にお願いしよう」。現場ではよくある判断ですが、経理規程で定められた随意契約の限度額を超えている場合、原則として「競争入札」が必要です。
性質上どうしても競争入札が適当でない場合は、なぜ随意契約にしたのか、その合理的な理由を明確にして書面に記録しておかなければなりません。理由書がないままの随意契約は、監査で厳しく指摘されます。

⚠ NG行動2:理事会での「書面や代理人による議決権行使」を認める

理事会に欠席する理事から、「委任状を出します」「書面で賛成します」と言われたことはありませんか?社会福祉法人では認められていません
理事は、法人経営の重要な意思決定を行うため、本人が会議に参加して議論を尽くす義務があります。どうしても集まれない場合は、要件を満たしたテレビ会議システム等を活用するか、決議の省略(みなし決議)の手続きを踏む必要があります。安易に委任状で済ませていた法人は、過去の議事録を見直す必要があります。

⚠ NG行動3:同意書等に法人が「あらかじめ日付を印字」して送付する

理事会招集通知の省略同意書や、みなし決議の同意書などで、事務の手間を省くために「令和〇年〇月〇日」と日付を印字した状態で役員に送っていませんか?
監査では、「本人の意思で本当にその日に同意したのか?」が疑われます。同意書は、本人が内容を確認し、本人の手で日付を自書して署名(または記名押印)するのが大原則です。親切心のつもりが、文書偽造のリスクと捉えられかねないので今すぐやめましょう。

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学校法人だと書面決議が認められていますので、社会福祉法人と学校法人の理事長を兼務されている先生は間違いやすい点です。


4. 現場のリアルな悩みに答える!実務Q&A

指導監査の準備を進めていると、マニュアルには載っていないような細かな疑問が次々と湧いてきますよね。ここでは、私たちが法人の皆様からよくご相談いただくリアルな疑問にお答えします。

  • 保育所の委託費収入は、どこまで弾力的に運用(他の事業への流用など)してよいのでしょうか?

    委託費の他事業への流用(弾力運用)については、単に「お金が余ったから」という理由では認められません。大前提として「当該保育所の適切な運営が確保されていること」が求められ、具体的には以下の要件をすべて満たす必要があります。

    • 人件費比率の適正化:国が定める職員配置基準を遵守し、必要な職員が確保されていること
    • 適切な処遇改善:職員の賃金改善が適切に行われ、処遇改善等加算の要件を満たしていること
    • 良好な施設環境:児童の安全と健康を維持するための修繕や備品購入が計画的に行われていること
    • 監査結果の良好性:直近の指導監査において、委託費の管理や運営面で重大な指摘を受けていないこと

    これらの要件をクリアした上で、当期の資金収支に余剰が生じる場合にのみ、他事業や本部経費への流用が可能となります。判断を誤ると「返還指導」という非常に重いペナルティを受ける可能性があるため、必ず以下の通知文(一次情報)の別添「流用制限の取扱い」を確認してください。

    【一次情報:こども家庭庁通知】
    子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について

    クリックするとpdfが開きます

  • 定款に「業務執行理事」の記載がありますが、実は理事会で選定し忘れていました。どうすればいいですか?

    早急に直近の理事会で選定の決議を行ってください。
    定款で「業務執行理事を置く」と規定しているのに、選定していない状態は定款違反となります。もし実態として業務執行理事を配置する必要がない(理事長だけで業務執行が回っている)のであれば、定款変更の手続きを行い、業務執行理事に関する規定そのものを削除・見直すことをおすすめします。実態と定款のズレは、監査で必ず突かれるポイントです。

  • 事後になって「あ、これ本来は理事会に諮らなきゃいけない契約(事項)だった!」と気づきました。議事録を遡って作り直すべきでしょうか?

    絶対に過去に遡って議事録を捏造(改ざん)してはいけません。日付を偽装して議事録を作成することは、単純な手続きミスよりも遥かに重い「ガバナンスの重大な欠如」として扱われます。
    この場合は、直近の理事会で「事後報告」として経緯を正直に説明し、理事会から「追認(事後的に承認すること)」を得るという手続きを踏むのが実務上の正しい対応です。

    📄 理事会決議事項の事後追認に関する記載例

    第〇号議案 〇〇業務委託契約の締結に関する追認の件

    議長より、令和〇年〇月〇日付で締結した「〇〇業務委託契約」について、本来であれば法人の経理規程に基づき、事前に理事会の決議を要する事項であったが、事務手続き上の過誤により事前の決議を経ぬまま契約を締結した旨の報告があった。

    議長は、本契約の内容を改めて詳細に説明し、本契約を事後的に承認(追認)することの可否を諮ったところ、出席理事全員一致をもって、本契約を追認することに承認決した。
    なお、議長より、今後は稟議フローを再徹底し、再発防止に努める旨の表明があった。

    このように、ミスを隠さず、自浄作用を働かせて「追認」の記録を残すことが、結果的に法人の信用を守ることにつながります。


5. この記事のまとめ

指導監査の指摘事項データを読み解くと、多くの法人が「知らなかった」「うっかり忘れていた」「現場の慣例でやってしまっていた」という理由でつまずいていることがわかります。

監査対応とは、特別な書類を徹夜で作ることではありません。「定款や経理規程という法人のルールを、日々の業務フローに落とし込み、当たり前に守れる仕組みを作ること」、つまり日常のガバナンス強化そのものです。

  • 契約書にハンコを押す前に、経理規程の限度額を確認する。
  • 理事会の招集通知は、決められた期限までに確実に出す。
  • ミスが発覚した時は隠さず、理事会でオープンにして追認・改善する。

こうした日々の小さな積み重ねが、いざ監査が入ったときに、法人と現場の職員を守る確固たる証拠になります。今年の監査準備は、過去の書類の辻褄合わせではなく、ぜひ「今の業務フローの見直し」から始めてみてくださいね。


【資料編】指導監査指摘事項データ 分類別まとめ(令和5・6年度)

実際の指導監査で指摘された全データを分類別に要約しました。テーマごとに「行政の指摘ポイント」と「法人の対策」を整理していますので、監査前のセルフチェックリストとしてご活用ください。

【経理・会計】

▼ 行政のチェックポイント(主な指摘内容)

  • 限度額を超える随意契約(競争入札未実施)
  • 残高証明書の未取得、財産目録との不一致
  • 経理規程が未承認、または実態と合っていない
  • 契約時の決裁権限(理事長専決か理事会承認か)の逸脱

▼ 法人が取るべき対応・対策
契約前に必ず経理規程の「限度額」を確認する。随意契約にする場合は「合理的な理由」を稟議書等に明記する。期末の残高証明書は確実に取得し、計算書類との整合性を確認する。

【理事会・評議員会運営】

▼ 行政のチェックポイント(主な指摘内容)

  • 招集通知の期限違反(1週間前までに発出されていない)
  • 書面決議や代理人による議決権行使を認めている
  • 決議の省略(みなし決議)で全員の同意を得ていない
  • あらかじめ日付を印字した同意書を送付している

▼ 法人が取るべき対応・対策
会議の開催日・議題は理事会で決定後、期限内に招集通知を出す。議決は必ず対面(テレビ会議含む)で行う。同意書は日付を含め本人の自署・押印を徹底する。

【役員選任・報酬】

▼ 行政のチェックポイント(主な指摘内容)

  • 就任承諾書や欠格事由確認書の徴収漏れ
  • 監事選任時、「監事の過半数の同意」を得ていない
  • 定款は「無報酬」なのに役職手当等を支給している

▼ 法人が取るべき対応・対策
再任であっても就任承諾書等は都度徴収する。監事選任議案を出す際は、同意書を事前に確保する。手当や報酬を支給する場合は定款変更と規程整備をセットで行う。

【議事録・報告】

▼ 行政のチェックポイント(主な指摘内容)

  • 評議員会議事録への「議事録の作成に係る職務を行った者の氏名」の記載漏れ
  • 定款で定めた出席理事・監事の署名(記名押印)漏れ
  • 理事長の職務執行状況報告(年2回以上等)が未実施

▼ 法人が取るべき対応・対策
議事録フォーマットに作成者氏名欄を設ける。理事長は定款規定(3ヶ月に1回、または4ヶ月を超える間隔で年2回など)に従い必ず状況報告を行い、議事録に残す。

【登記・定款】

▼ 行政のチェックポイント(主な指摘内容)

  • 理事長変更時の役員変更登記(2週間以内)の遅延
  • 資産総額の変更登記(年度終了後3ヶ月以内)の遅延
  • 新事業実施後の目的の登記が漏れている

▼ 法人が取るべき対応・対策
登記手続きを決算や役員改選のスケジュールに組み込んで忘れずに手配する。新規事業開始前に定款変更の認可手続きを完了させる。

大田黒 健太 法人運営支援・施設DX推進

Kenta Ootaguro

熊本出身
法人運営支援を主として、ICTシステム導入・認可申請支援・WEBサイト企画・認定こども園移行支援等、保育事業の幅広い支援をおこなう。

社会福祉法人支援システム ココ+ナビ プロジェクトリーダー