理事長・施設長・事務長様
株式会社幼保支援 法人運営支援/施設DX推進担当の大田黒です。
減価償却費という科目、決算書に載っているけれど実際にお金が出ていくわけではない、という感覚だけで済ませていませんか。この数字の使い道を理解しているかどうかで、借入金の返済計画も、次の建替の準備も、精度がまったく変わってきます。今日はその仕組みを整理します。
1. 減価償却費は法人の中に残るお金
減価償却費は、建物や設備の取得にかかった費用を、使用する期間にわたって少しずつ費用として計上していく会計処理です。1億円の建物を建てたとき、その年に1億円全額を費用にするのではなく、耐用年数にわたって毎年少しずつ費用配分していきます。
ここで押さえておきたいのは、減価償却費は実際に現金が出ていく費用ではないという点です。建物の代金はすでに建設時に支払い済みであり、決算のたびに計上される減価償却費は、帳簿上の費用にすぎません。つまり事業活動計算書で費用として利益を圧縮しながら、その分の現金は法人の中に残り続けます。
この「利益は圧縮されるが現金は減らない」という性質があるからこそ、減価償却費は借入金の返済原資として機能します。
ただしこの効果は、法人が利益(サービス活動増減差額)を出せていることが前提です。本業が赤字であれば、減価償却費という内部留保効果があっても、それを上回る現金流出を補いきれません。本業の収益力に依存しているということを忘れないでください。
- 建物の代金は建設時に払い終えている → 減価償却費の計上時に新たな現金支出はない
- 利益がプラスで減価償却費も計上されている → その合計額が借入金返済の原資になる
- 本業が赤字続き → 減価償却費だけでは返済原資として不十分になりやすい
2. 積立金と積立資産、似て非なる2つの科目
減価償却の話とあわせて理解しておきたいのが、将来の建替や大規模修繕に備える「積立金」と「積立資産」の関係です。名前が似ているため混同されがちですが、性質はまったく異なります。
- 積立金:貸借対照表の純資産の部に計上する科目。理事会の決議に基づき、将来の特定の目的のために当期末繰越活動増減差額から積み立てる、いわば「使い道を予約したお金」の帳簿上の記録。
- 積立資産:貸借対照表の資産の部に計上する科目。積立金という帳簿上の予約に対応して、実際に確保しておく預金などの現金・預金。
- 両建てのルール:積立金を計上する際は、原則として同額の積立資産をあわせて計上する。目的を示す名称(例:施設整備等積立金)を付けて管理する。
積立金だけを帳簿に計上して、対応する積立資産(現金)を実際には確保していない状態は、例外として認められることもありますが、その場合も理事会の承認が必要です。原則は両建てである、という基本を外さないでください。
3. 減価償却費と借入金返済のバランスを確認する手順
設備投資の資金計画が健全かどうかは、次の手順で確認できます。
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当期の減価償却費の額を確認する
事業活動計算書に計上されている当期の減価償却費の総額を確認する。
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当期の設備資金借入金の元金返済額を確認する
資金収支計算書の施設整備等による支出の中から、借入金元金の返済額を確認する。
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減価償却費と元金返済額を比較する
減価償却費が元金返済額を上回っていれば、その事業年度の返済は無理なく行えている状態と判断できる。
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将来の建替に向けた積立の状況を確認する
施設整備等積立金と、対応する積立資産の残高が計画通りに積み上がっているかを確認する。
この4つを毎期セットで確認しておくと、単年度の黒字・赤字だけでは見えない、法人の設備投資体力の変化に早く気づけます。特にステップ3で減価償却費が元金返済額を下回る状態が続いているなら、次の借入や大規模修繕の計画を見直す前に、まず本業の収益構造そのものに手を打つ必要があります。
4. 積立金だけ計上してしまった注意点
⚠ 積立金があっても、積立資産がなければ使えない
貸借対照表の純資産の部に「施設整備等積立金」が計上されていても、対応する積立資産(現金・預金)が実際には確保されていない法人があります。この場合、帳簿上は将来の建替に備えているように見えても、実際にその時が来たときに使える現金は手元にありません。積立金と積立資産は原則両建てというルールを、決算のたびに確認してください。
もう1つのよくある誤解が、積立金の取崩しで赤字を黒字に見せられるという考えです。積立金の取崩しは貸借対照表の純資産の部の中での動き(積立金から次期繰越活動増減差額への振り替え)であり、事業活動計算書の当期の収支には影響しません。取り崩したからといって、その年の本業の赤字が消えるわけではないということです。
積立金の取崩しは、あくまで積み立てておいた目的(人件費や修繕や建替)にお金を使う場面での手続きであり、赤字対策の手段ではないと切り分けて理解してください。
5. 確認すべき計算式
📄 理事会資料に載せる2つのチェック
減価償却費 ≧ 設備資金借入金の返済額
この状態が保てていれば、本業の利益を取り崩さずに借入金を返済できている。下回っている場合は、返済に本業の蓄積を使っている状態。
債務償還年数 = 借入金残高 ÷(経常増減差額+減価償却費)
今のペースで返済を続けた場合、何年で完済できるかの目安。
あわせて、積立金の残高と積立資産の残高が一致しているかどうかも、毎期のチェックリストに加えておくことをおすすめします。両者がずれている場合は、その理由(資金管理上の例外的な取扱いなのか、単なる計上漏れなのか)を明確にしておく必要があります。
6. 実務Q&A
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減価償却費が借入金の元金返済額を下回っていたら、すぐに危険なのですか。
直接的な危機にすぐ直結するわけではありません。設備資金の借入金は、減価償却費の計上によって法人内に留保された「現金」の範囲内で返済していくのが理想です。もし元金返済額が減価償却費を上回っていると、その不足分は、本来なら将来の建替などの「積立資産」に回すべき本業の利益から持ち出すことになります。この状態が続くと、いざ大規模修繕が必要になったときに使える現金がない、という事態に陥りやすくなります。
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積立金は、どんな目的でも自由に設定できるのですか。
目的を示す名称を付けたうえで、理事会の決議に基づいて計上するものです。「施設整備等積立金」「人材確保等積立金」のように使途を明確にし、目的外の取崩しをしないよう管理する必要があります。目的が曖昧なまま積立金だけを増やしていくと、実際に必要になったときに使いにくくなります。
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減価償却費が終わった(簿価がゼロになった)建物は、もう気にしなくてよいのですか。
帳簿上の減価償却が終わっても、建物は現実に老朽化し続けます。むしろ減価償却費という費用計上が終わった後こそ、大規模修繕や建替の時期が近づいているサインです。積立金・積立資産の準備状況を、この段階でより重点的に確認してください。
7. この記事のまとめ
減価償却費は、過去の投資のコストを分割で計上しているだけの数字ではなく、未来の投資のための原資が法人の中に残っているサインです。この数字と借入金の返済額、積立金と積立資産の残高をセットで見る習慣をつけるだけで、設備投資の判断力が変わってきます。
次の決算では、減価償却費と設備資金借入金の元金返済額を並べて比較してみてください。積立金の残高だけでなく、対応する積立資産が実際にいくら積み上がっているかまで確認することが、次の建替計画を検討するうえでの備えになります。

大田黒 健太 法人運営支援・施設DX推進
Kenta Ootaguro
熊本出身
法人運営支援を主として、ICTシステム導入・認可申請支援・WEBサイト企画・認定こども園移行支援等、保育事業の幅広い支援をおこなう。
社会福祉法人支援システム ココ+ナビ プロジェクトリーダー