【第2回】定款とはなにか?
2026.01.26


理事長・施設長・事務長様
株式会社幼保支援 法人運営支援/施設DX推進担当の大田黒です。
今週のテーマは「社会福祉法人の定款変更手続きと、法務局登記・監査対策の完全ガイド」です。
新しい事業の立ち上げや施設の建て替え、役員定数の見直しなど、法人が新たなステップを踏み出す際に必ず立ちはだかるのが定款変更ですよね。「所轄庁への申請書類が多すぎる」「評議員会を通すための議事録作成が本当に面倒」といった現場の悲鳴、痛いほどよく分かります。日々の施設運営で手一杯なのに、細かい法律用語と格闘するのは本当に骨が折れますよね。
しかし、手続きを甘く見ていると、後々の行政監査で重大な指摘を受けるだけでなく、法的な効力が認められないという最悪の事態に発展します。この記事では、面倒な議事録作成から、忘れがちな法務局での変更登記まで、適法性を担保しながら確実に進める実務のポイントを解説します。ぜひ最後までお付き合いください。
1. 導入:定款変更、後回しにしていませんか?
社会福祉法人の運営において、新規事業の立ち上げ、老朽化した施設の建替え、あるいは組織規模に合わせた役員定数の見直しなど、法人が前進しようとするタイミングで必ず求められるのが「定款変更」です。
現場で実務を担う事務長や担当者の皆様とお話ししていると、「とにかく役所への提出書類が膨大で気が滅入る」「所轄庁の担当者によって細かい指摘が違って困る」といったお悩みを本当によく耳にします。現場の職員配置のやりくりや日々のトラブル対応でただでさえ忙しいのに、それに加えて難解な法律の手続きまで求められるのですから、後回しにしたくなる気持ちは十分に理解できます。
しかし、定款変更の手続きは「後でまとめてやればいいや」が絶対に通用しない世界なんです。適法な手続きを踏まずに事業を進めてしまうと、行政監査で重大な指導対象となるばかりか、場合によっては進めていた契約そのものが無効になってしまうリスクが潜んでいます。さらに、法務局での登記手続きをうっかり忘れると、過料という罰金のようなものを支払わなければならないケースもあります。
この記事では、社会福祉法に基づいた正しい定款変更のプロセス、監査員がどこをチェックするのかという監査対策の視点、そして明日からすぐにコピペして使える議事録の記載例までを網羅的にまとめました。これさえ読めば、自信を持って手続きを進められるようになります。
2. 基礎知識:社会福祉法人の定款とは?変更が必要になる具体例
そもそも、定款とは社会福祉法人にとっての「憲法」のような存在です。社会福祉法第31条に基づき、法人の目的、名称、行う社会福祉事業の種類、事務所の所在地、役員に関する事項など、法人の根幹を成す「絶対的記載事項」がしっかりと定められています。
多くの法人は、厚生労働省が示している「社会福祉法人定款準則」に沿って作成していますが、ここに書かれていないルールで組織を勝手に動かしたり、定款に記載のない事業を思いつきで行ったりすることは厳格に禁止されています。
では、現場の実務として、具体的にどのようなタイミングで定款変更というハードルを越えなければならないのでしょうか。よくあるケースを整理しておきましょう。
- 新規事業の開始(目的・事業の変更)
保育園を運営している法人が、新たに放課後児童クラブや地域子育て支援拠点事業を始める場合などが該当します。社会福祉法人は極めて高い公益性が求められるため、定款に記載のない事業(目的外行為)を無断で行うと、その事業の契約自体が法的に無効となる恐れがあります。 - 基本財産の変動(増加・処分・担保提供)
老朽化した施設を取り壊して新築する場合や、福祉医療機構(WAM)以外の民間金融機関から多額の借り入れを行うために、施設の土地や建物に抵当権を設定する場合です。基本財産は法人の存立基盤そのものですから、これを動かす行為は最も厳格な審査の対象となります。 - 主たる事務所の移転
法人の本部所在地が変わる場合です。たとえ同じ市区町村の近所への引っ越しであっても、定款に明記された住所が変わるため、所定の手続きが必要になります。 - 役員・評議員の定数変更
組織の規模拡大や縮小に合わせて、理事や評議員の枠(定款にある「〇名以上〇名以内」という記載)を増減させる場合です。人事を動かす前に、定款の枠がどうなっているかを確認する必要があります。
法人の運営に何か新しい動きがあるときは、理事長や事務長がまず「うちの定款の第何条に影響するか」を確認するクセをつけることが、ガバナンスを守る第一歩になります。
3. 監査対策の要:絶対に失敗しない定款変更の決議フロー
定款変更は、事務担当者がパソコンでWordのデータを書き換えて終わり、というわけにはいきません。社会福祉法第43条において、非常に厳格な決議手続きが定められています。この順序を間違えたり、会議の定足数を満たしていなかったりすると、せっかくの決議がすべて無効となり、議事録の作り直しからやり直しという悲惨なことになります。
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事前の所轄庁への相談・協議
実は、いきなり理事会を開くのは得策ではありません。事後報告的に申請を出すと、「この文言では行政として認可できません」と突き返されることが多々あります。必ず事前に、変更案文を行政の担当者に見てもらい、下打ち合わせを済ませておきましょう。
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理事会での承認(過半数の賛成)
次に理事会を開催し、「定款変更の案」と「それを評議員会に提出すること」を承認します。理事会はあくまで案を固める機関です。ここで、議決に加わることができる理事の過半数が出席しているか(定足数)を必ず確認してください。
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評議員会での決議(特別決議)
ここが実務上の最大の難所です。社会福祉法人の定款変更は、評議員会での特別決議事項となります。原則として、議決に加わることができる評議員の3分の2以上の賛成がなければ可決されません。例えば評議員が7名の場合、5名以上の賛成が必要です。欠席者が多いと決議自体が成立しないため、事前の日程調整と丁寧な根回しが命綱となります。
4. 実務の壁:所轄庁への認可申請と「届出」の違い
評議員会で無事に承認が得られたら、次は所轄庁(都道府県知事や市区町村長)への手続きに進みます。ここで事務担当者を悩ませるのが、変更する内容によって「認可」が必要なものと、「届出」で済むものに分かれている点です。これを間違えるとスケジュールが大きく狂います。
- 認可が必要な事項(原則)
事業目的の変更、基本財産の処分や担保提供、役員定数の変更など、法人の根幹に関わる重要な変更はすべて事前の「認可」が必要です。所轄庁に申請書、議事録、新旧対照表、事業計画書などの分厚い書類を提出し、厳しい審査を経て「認可書」が交付された日をもって、初めて新しい定款が効力を持ちます。申請から認可が下りるまで、平気で1〜2ヶ月かかることが多いので、事業開始日から逆算してかなり早めに動く必要があります。 - 届出で済む事項(例外)
社会福祉法第43条第3項に基づき、軽微な変更については事後の「届出」で足ります。具体的には、主たる事務所の所在地の変更、公告の方法の変更、基本財産の増加(新しい施設が完成して財産に組み入れる場合など)です。これらは変更があった後、遅滞なく所轄庁に届出書を提出すれば手続き完了となります。
5. 忘れがちで超危険!法務局での「変更登記」手続き
所轄庁から立派な認可書が届いて一安心。「さあ、新しい事業をスタートしよう!」……ここで手続きを終わらせてしまう法人が非常に多いのです。適法性の観点から絶対に見落としてはならないのが、法務省の管轄である法務局での「変更登記」です。
社会福祉法人は、組合等登記令という法律に基づき、法人登記簿に載っている登記事項に変更が生じた場合、原則として変更があった日から2週間以内に変更登記を行わなければならないと定められています。
- なぜ登記が絶対に必要なのか?
所轄庁の認可は、あくまで行政上の手続きです。しかし、取引先の銀行から融資を受けたり、不動産会社と契約を結んだりする際、相手に対して「うちの法人は適法にこの事業をやっていますよ」と証明するためには、国が管理する登記簿にその内容が載っている必要があるからです。登記が済んでいないと、銀行口座の開設すら断られることがあります。 - 登記を忘れるとどうなるか(過料のリスク)
2週間の期限を過ぎて放置していると「登記懈怠(とうきけたい)」という状態になります。最悪の場合、理事長宛に数万円から数十万円の「過料(罰金のようなもの)」の支払いを命じられる通知が届きます。法人の経費ではなく理事長個人のポケットマネーから支払うことになりますし、当然、行政監査でも「コンプライアンス意識が低い」と厳しく指摘されます。 - 手続きの役割分担
所轄庁への認可申請は行政書士の領域ですが、法務局への登記申請は司法書士の領域です。定款変更に伴う登記は必要書類も多く複雑なため、無理に自前でやろうとせず、司法書士の先生に依頼することをお勧めします。
6. 要注意!行政監査で確実に指摘されるNG行動
ここからは、私たちが数々の法人の監査対策をサポートしてきた中で、実務で本当によく見かけるミスをお伝えします。指導監査ガイドラインにも抵触する危険なポイントです。
⚠ NG行動1:認可が下りる前に事をスタートしてしまう
「評議員会で承認されたからもう始めていいだろう」と勘違いして、フライングで事業を開始したり、施設の解体工事を始めたりするケースです。定款変更は、原則として所轄庁の「認可」があって初めて効力を生じます。認可が下りる前の行為は法的に無効とみなされ、行政から厳しい指導や改善勧告を受ける対象になります。絶対にフライングしてはいけません。
⚠ NG行動2:建替え時の「基本財産処分」の手続き漏れ
古い園舎を壊して新しい園舎を建てる場合、新しい建物を基本財産に入れる手続き(増加の届出)ばかりに目が行きがちです。しかし、その前に古い建物を取り壊すための「基本財産処分の認可」手続きが絶対に必要です。これを飛ばして建物を解体してしまうと、基本財産の無断処分となり、役員の善管注意義務違反を問われる事態に発展します。また、建物は国庫補助が使われていたり、抵当権がついていたりするので、慎重に行ってください。
⚠ NG行動3:議事録の形骸化と定足数の確認漏れ
監査員は議事録を穴が開くほど隅々までチェックします。特別決議の3分の2以上の要件を満たしているか、特別の利害関係を有する理事や評議員が決議から除外されているかが問われます。また、質疑応答が全く書かれておらず、「異議なく承認された」とだけ書かれている議事録は、「会議が形骸化している」とみなされ、ガバナンス体制の不備として注意される場合もあります。
7. 【保存版】そのまま使える実務フォーマット・議事録記載例
いざ議事録を書こうと思っても、法律の要件を満たす適切な言い回しに悩みますよね。ここでは、定款変更(新規事業の追加)を行う際の評議員会議事録の記載例をご用意しました。このままコピーして、自法人の実情に合わせて書き換えて使ってみてください。
📄 評議員会議事録 記載例(第〇号議案:定款変更の件)
議長は、令和〇年〇月〇日開催の理事会において承認された定款の変更について、第〇号議案として上程し、事務局の〇〇より以下の通り提案理由及び変更内容の説明を行わせた。
(提案理由)
当法人は、地域の待機児童解消と子育て支援の拡充を目的とし、新たに「〇〇事業」を開始することとした。これに伴い、定款第〇条(事業目的)について所要の変更を行うものである。変更の内容については、別紙「定款新旧対照表」の通りである。
(審議の経過及び結果)
議長が本案について出席評議員に質疑を求めたところ、〇〇評議員より「新事業の開始時期と人員確保の見通しはどうか」との質問があり、〇〇理事長より「令和〇年〇月の開始を目指しており、人員については既に〇名の採用が内定している」旨の回答があった。
他に質問等もなく、議長が本案の賛否を諮ったところ、議決に加わることができる評議員〇名中、〇名の賛成をもって、原案通り承認可決された。
なお、本定款の変更は、所轄庁である〇〇市長(又は知事)の認可があった日から施行することを確認した。
このように、「誰がどんな懸念を持ち、法人がどう答えたか」という審議のプロセスをしっかりと文章に残すことで、監査員に対して適正にガバナンスが機能していることをアピールできます。
8. 現場からのSOS!実務Q&A
定款変更に関して、法人の事務担当者様からよくいただく実務的でリアルなご質問に、お答えします。
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評議員がどうしても集まらないので、書面決議(みなし決議)で定款変更を通しても適法ですか?
法律上は可能です。社会福祉法第45条の9第10項において準用する一般社団・財団法人法により、理事または評議員が提案した事項について、議決に加わることができる評議員の「全員」が書面または電磁的記録により同意の意思表示をした場合には、評議員会の決議があったものとみなすことができます。ただし、1人でも回答がない、または反対すると成立しません。定款変更のような法人の根幹に関わる重要事項は、実際に集まって議論することが強く推奨されるため、所轄庁によってはみなし決議を渋るケースもあります。実施の際は、必ず事前に所轄庁へ相談してください。
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手続きを急ぎたいので、理事会と評議員会を同じ日に連続して開催しても問題ないですか?
物理的には可能ですが、手続き上注意が必要です。本来、理事会で案を承認した後に、評議員に対して招集通知(原則1週間前までに発送)を送る手順を踏む必要があります。同日開催にする場合、評議員全員から事前に「招集手続きの省略に対する同意書」を取っておかなければならず、書類の不備が生じやすくなります。監査のリスクを減らすためにも、実務上は別日に設定することをお勧めします。
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新しい事業のために土地を購入して基本財産が増えたのですが、定款の変更認可申請が必要ですか?
基本財産の「増加」のみであれば、事前の認可申請ではなく、事後の「届出」で足ります。ただし、その購入した土地を使って新しい事業を始める場合は「事業目的の変更」に該当するため、認可が必要になります。またその際の、法務局での事業目的の変更登記は、別途必要になりますので忘れないようにしてください。
9. まとめ:定款は法人の意志そのもの
いかがでしたでしょうか。定款変更と聞くと、所轄庁と法務局の二重の手続きや、決議要件のクリアなど、どうしても面倒な作業ばかりに目が行きがちですよね。
しかし、その本質は「私たちの法人がこれからどういう方向へ進んでいくのか」という、極めて重要な意志決定のプロセスそのものです。書類作成の煩雑さに追われる事務長さんや担当者様のお気持ちは痛いほど分かりますが、法律に則ってこの手続きを適正に行うことこそが、法人をコンプライアンス違反から守り、ひいては理事長や現場の職員を守ることにつながります。
ぜひこの機会に、書庫の奥に眠っている自法人の定款と最新の登記簿謄本を引っ張り出して、「今の事業実態と合っているか」「昔の変更が登記漏れになっていないか」を確認してみてください。次回の役員会で、定款のメンテナンスについて少し話題に出してみてはいかがでしょうか。事前の準備が、必ず未来の法人運営を助けてくれます。