理事長・施設長・事務長様
株式会社幼保支援 法人運営支援/施設DX推進担当の大田黒です。
令和8年12月25日、こども性暴力防止法(いわゆる日本版DBS)が施行されます。保育所や認定こども園、児童養護施設、障害児通所支援事業所を運営する社会福祉法人にとって、これは「研修が一つ増える」程度の話ではありません。採用の手順、就業規則、職員の個人情報の扱い、事故が起きたときの調査体制まで、人事と運営の仕組みそのものに手を入れる制度なんです。しかも、犯歴という極めて機微な情報を法人が扱うことになるため、準備不足のまま施行日を迎えると、こどもを守るどころか職員とのトラブルや情報漏えいのリスクを抱えることになります。施行まで残りおよそ80日。この記事では、法律の全体像から施行日までにやるべきこと、施行後の運用で迷いやすいポイントまで、ひと通り整理しました。
1. こども性暴力防止法の全体像
正式名称は「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(令和6年法律第69号)です。令和6年6月19日に成立、同月26日に公布され、令和8年12月25日に施行されます(出典: こども家庭庁「こども性暴力防止法」)。
「日本版DBS」という呼び名から、性犯罪歴の照会制度だけをイメージしがちですよね。ただ、法律の中身を見ると、照会はあくまで柱の一つです。法第1条は、性暴力がこどもの心身に生涯にわたって回復しがたい影響を与えることを踏まえ、事業者に防止の責務があることを明らかにする、と目的を定めています。そのうえで、事業者が講じる措置は大きく次の3つに整理できます。
- 犯罪事実確認:こどもに接する業務に就く職員について、国(こども家庭庁)を通じて特定性犯罪の前科の有無を確認する(法第4条)
- 安全確保措置:こどもとの面談などによる早期把握、相談しやすい体制、疑いが生じたときの調査、被害児童の保護・支援、職員研修(法第5条〜第8条)
- 情報管理措置:確認で得た犯歴情報を、管理責任者を置くなどして適正に管理する(法第11条)
この制度が必要とされた背景として、こども家庭庁の概要資料では、公立学校の教育職員で性犯罪・性暴力等を理由に懲戒処分等を受けた者が近年毎年200人以上にのぼることが示されています(出典: こども家庭庁「こども性暴力防止法について(概要)」)。前科のある人を現場に入れない「初犯・再犯の入口対策」と、日頃の運営で兆候を拾う「現場の対策」を、セットで義務付けたのがこの法律の特徴なんです。
もう一つ押さえておきたいのが、対象となる「性暴力」の範囲です。刑法上の犯罪にあたる行為だけでなく、こどもを不快にさせる性的な言動も含まれます。さらに、性暴力には当たらないものの、続けば性暴力につながりうる「不適切な行為」を事業者ごとに定め、服務規律として周知することも求められています。ここは後ほど詳しく触れます。
2. 自法人の事業は「義務対象」か「認定対象」か
最初に確認すべきは、法人が運営している各事業がどちらに区分されるかです。この法律では、法律上すべての措置が義務となる「学校設置者等(義務対象事業者)」と、国の認定を受けた場合に措置を行う「民間教育保育等事業者(認定対象事業者)」に分かれています。認定は任意で、申請は事業ごとに行い、手数料は1事業あたり3万円です(出典: こども家庭庁「こども性暴力防止法について(概要)」)。
社会福祉法人が運営していることの多い事業を、概要資料の区分に沿って整理すると次のとおりです。
ここでよく混乱するのが、一つの法人や一つの施設の中で区分が分かれるケースです。たとえば保育所(義務対象)と一時預かり事業・病児保育事業(認定対象)を同じ建物で運営している、という形は珍しくありませんよね。概要資料のQ&Aでは、義務対象事業と認定対象事業を一体的に運営・人事管理している場合、必ずしも認定を取得する必要はないとされています。とはいえ、認定対象事業だけを担当する職員がいる、運営主体や会計が分かれているといった事情があれば判断が変わります。事業ごとに一覧表を作り、区分と担当職員を並べてみるのが一番の近道です。
なお、高齢者福祉や成人向けの障害福祉サービスだけを運営している法人は、原則としてこの法律の対象外です。ただ、障害児も利用する事業を一部で行っている場合は認定対象に該当しうるので、事業の対象者を一度確認しておいてください。
3. 犯罪事実確認の対象になる職員の範囲
次に決めるのが、「どの職員を犯罪事実確認の対象にするか」です。法律上の対象は、こどもに対して教育・保育等を行う業務に従事する者で、こども家庭庁の概要資料では次の3要件で判断するとされています(出典: こども家庭庁「こども性暴力防止法について(概要)」)。具体的な判断の考え方はこども家庭庁「こども性暴力防止法施行ガイドライン」で示されています。
- 支配性:指導やコミュニケーションを通じてこどもに対し優越的な立場に立つ機会がある
- 継続性:日常的・定期的に、または反復継続してこどもと接する機会がある
- 閉鎖性:他の職員や保護者の目が届かない状況でこどもと接する機会がある(SNS等オンラインでの接触を含む)
保育士、児童指導員、児童発達支援管理責任者、保育教諭のように、こどもと常に接する職種はほぼ一律で対象です。悩ましいのは、事務職員、調理員、送迎の運転手、看護師、嘱託医、清掃員、ボランティア、派遣職員といった職種なんです。概要資料でも、これらは「現場の実態によって対象となり得る職種」として挙げられています。
正直に言うと、ここは法人ごとに答えが変わります。たとえば送迎の運転手でも、添乗職員が必ず同乗する運用なら閉鎖性は低いと考えられますが、運転手が一人で児童を送り届ける時間帯があるなら対象に含めたほうが筋が通ります。調理員も、厨房の中だけで完結するのか、食育活動や配膳でこどもと継続的に関わるのかで判断が分かれるところです。
現場の本音としては、「迷う職種はとりあえず全員対象にしておけば安全」と考えたくなりますよね。ただ、対象を広げるほど、戸籍情報の提出を求める職員が増え、犯歴情報を扱う件数も増えます。逆に絞りすぎれば、法の趣旨を満たしていないと判断されるおそれがあります。職種ごとに3要件への当てはまりを書き出し、判断理由を記録に残しておくこと。そのうえで判断に迷う職種が残った場合は、所轄庁やこども家庭庁の専用ダイヤルに確認する、という順番が現実的です。
4. 犯罪事実確認の仕組みとスケジュール
犯罪事実確認で照会されるのは「特定性犯罪」の前科です。不同意性交等、不同意わいせつ、盗撮、児童買春、児童ポルノ所持、痴漢(迷惑防止条例違反)などが含まれ、被害者が成人だった場合も対象になります。照会される期間は次のとおりです。
- 拘禁刑:刑の執行が終わってから20年を経過していないもの
- 拘禁刑の執行猶予:判決の確定から10年を経過していないもの
- 罰金刑:刑の執行が終わってから10年を経過していないもの
確認は、法人が職員の前科を直接調べるのではなく、国が開発した「こまもろうシステム」を介して行います。新規採用時の流れは次の5段階です。
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法人がこども家庭庁に交付申請する
こまもろうシステム上で、対象職員について犯罪事実確認書の交付を申請します。システムへのログインにはGビズIDが必要です。
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職員本人が戸籍情報を提出する
本人が「戸籍(除籍)電子証明書提供用識別符号」を取得し、こども家庭庁に提出します。この識別符号の有効期限は3か月なので、取得のタイミングを申請時期に合わせて案内する必要があります。
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こども家庭庁が法務省に照会する
戸籍情報をもとに、法務省が保有する前科情報と照合されます。法人がこの過程に関わることはありません。
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前科がある場合は本人に事前通知される
特定性犯罪の前科が確認された場合、法人に交付される前に本人へ通知され、2週間の訂正請求の機会が設けられます。本人が内定を辞退すれば、法人に犯歴が伝わらない仕組みです。
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法人に犯罪事実確認書が交付される
システム上で確認書が交付されます。確認に要する期間の目安は、日本国籍の方で2週間〜1か月程度、外国籍の方で1〜2か月程度です。
確認のタイミングは、職員の区分によって異なります。
- 新規採用・配置転換:内定や内示の後、対象業務に従事する前に確認する
- 施行時現職者(12月25日時点で在職している職員):施行から3年以内、令和11年12月24日までに確認する
- 再確認:一度確認を受けた職員は5年ごとに確認する
- いとま特例:急な欠員など事前確認が間に合わないやむを得ない場合は、従事開始から3か月以内(合併・新設などは6か月以内)に確認する。確認が済むまでは原則としてこどもと1対1にさせないなどの措置をとる
施行時現職者は全国で約280万人にのぼるため、申請時期が分散されます。私立の学校や児童福祉施設等は、こども家庭庁が都道府県ごとに申請対象月を割り振り、所轄庁を通じて法人に通知される仕組みです。施行日から令和9年3月までは新規採用者の確認が優先され、現職者の申請は令和9年4月から令和11年6月までの27か月間で順番に行われます(出典: こども家庭庁「施行時現職者の犯罪事実確認書の交付申請の分散方法について」)。自分の都道府県の対象月は、所轄庁からの案内で確認してください。なお、育児休業中の職員も施行時現職者に含まれ、派遣職員については派遣先の事業者が確認を行います。
実務上、一番気をつけたいのは令和9年4月入職の新卒職員です。内定が出ている職員は、施行日以降に交付申請を行い、4月の従事開始までに確認書を受け取る段取りになります。年明けに申請が集中することも考えられるため、12月中に本人への手続き案内を済ませておくと、1〜3月の慌ただしさがかなり変わります。
5. 安全確保措置と情報管理措置
犯罪事実確認は前科のある人を対象業務から外す入口の対策ですが、前科のない人による初めての加害は防げません。そこで法律は、日頃の運営の中で兆候を拾い、起きてしまったときに適切に対応する仕組みも義務付けています。
- 早期把握(法第5条第1項):こどもとの面談やアンケートなどで、性暴力のおそれがないかを定期的に把握する
- 相談体制(法第5条第2項):こどもや保護者が相談しやすい窓口を設け、法人内の相談員に加えて外部の相談先(24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310 など)も周知する
- 防止措置(法第6条):確認結果や相談内容から性暴力のおそれがあると認められる場合、こどもに接する業務に従事させないなどの措置をとる
- 調査・保護(法第7条):疑いが生じたら調査を行い、被害が認められれば被害児童の保護・支援を行う
- 研修(法第8条):対象業務に従事する職員に研修を受講させる。こども家庭庁が標準の解説動画と確認テストを公開している
現場での運用を左右するのが、先ほど触れた「不適切な行為」の定め方です。概要資料では、SNSでの私的なやり取り、私物の端末でのこどもの撮影、こどもと二人きりで私的に会うこと、不必要な身体接触、特定のこどもばかりを理由なく担当しようとすることなどが例として挙げられています。一方で、おむつ交換や入浴介助、医療的ケアのように、業務上どうしても身体に触れる場面は保育や障害児支援では日常的にありますよね。概要資料でも、外形的に当てはまる行為でも、必要な業務として事前にルールを定めて行うものは除かれるとされています。「何を禁止するか」と同時に「業務として行う場合の手順(複数人での対応、扉を開けておく等)」をセットで決めておくことが、職員を守ることにもつながります。
情報管理措置については、犯歴情報の扱いを必要最小限の職員に限定すること、情報管理規程を整備すること、犯歴情報は原則こまもろうシステム上でのみ扱い、紙やExcelなどへの別保存は極力控えること、が基本です。ガイドラインには情報管理規程のひな型が3パターン用意されていて、確認者を1名にして記録を残さない形から、複数名で確認し記録も保存する形まで選べます。小規模な法人ほど、責任者1名・記録保存なしのシンプルな形から検討すると運用しやすいはずです。ただし責任者が1名だけだと、退職や長期不在のときに手続きが止まってしまいます。後任への引継ぎ方法や、不在時の代行者をあらかじめ規程に定めておいてください。
なお、確認で得た犯歴情報を漏らしたり目的外に提供したりした場合は、拘禁刑や罰金といった刑事罰の対象となり、法人にも罰金が科される両罰規定があります(出典: こども家庭庁「こども性暴力防止法 条文」)。民事上の損害賠償を請求される可能性もあります。漏えい等の重大な事態が起きた場合は、こども家庭庁へ直ちに報告することになっています。
加えて、事業者には犯罪事実確認の実施状況を帳簿に記載し、国に定期報告する義務があり(法第15条)、国や所轄庁による報告徴収・立入検査、命令、公表といった監督の仕組みも整えられています。令和8年10月1日には監督等の指針も示されました(出典: こども家庭庁「こども性暴力防止法」通知等)。これまでの指導監査とは別の切り口で、取組状況を確認される場面が出てくると考えておいてください。
6. 施行日までの準備フロー
本来の準備スケジュールでは、GビズIDの取得は令和8年4月末頃まで、こまもろうシステムへの事業者情報の事前登録(まとめ登録)は4月から7月が指定期間でした(出典: こども家庭庁「事業者情報の一括登録(まとめ登録)」)。また、令和8年8月28日付の通知で、義務対象事業者あてにこまもろうシステムのテストメールを配信することが示されています。ここまでが済んでいない場合は、まず所轄庁に状況を確認するのが最優先です。そのうえで、残りの期間でやるべきことを順に並べると次のようになります。
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GビズIDとシステム登録の状況を確認する(10月中)
法人としてGビズID(プライム)を取得済みか、所轄庁経由で事業者情報が登録されているか、テストメールが届いているかを確認します。届いていなければ所轄庁かこども家庭庁の専用ダイヤルに問い合わせてください。
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事業の区分と対象職員の範囲を確定する(10月中)
事業ごとに義務対象・認定対象を整理し、職種ごとに3要件で判断した結果を記録します。こども家庭庁が令和8年8月28日付通知の別紙として示した「対象従事者のリストイメージ」(Excel、総合ページの通知等欄に掲載)を使うと、施行後の申請準備にもそのまま使えます。
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システムの権限設定と担当者を決める(11月まで)
犯罪事実確認を申請する担当、犯歴情報を閲覧できる情報管理責任者などの役割を決めます。閲覧できる人数は必要最小限に絞り、理事長・施設長・事務長の誰が何を見るのかを明確にします。
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規程類を整備し、法人内の承認手続きを済ませる(11月〜12月)
児童対象性暴力等対処規程、情報管理規程、就業規則の改定(対象業務の範囲、犯罪事実確認への協力義務、懲戒事由など)を進めます。規程の承認機関は法人の定款や規程によって異なるので、理事会決議が必要な法人は12月の理事会に間に合うよう逆算してください。就業規則の作成・届出義務がある事業場では、職員代表の意見聴取と労働基準監督署への届出も必要です。
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採用書類を差し替える(11月まで)
募集要項・求人票、誓約書、内定通知書に、性犯罪歴に関する条項を加えます。ガイドラインの別紙に参考例があるので、現行の書式と見比べて差分を反映します。
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報告・相談体制をつくり、研修を実施する(12月まで)
疑いの段階で誰に報告し、誰が判断するのかという報告・対応ルールを決め、相談窓口を設置します。職員には標準の解説動画を視聴してもらい、確認テストで理解度を確かめます。研修は業務に従事する前の受講が原則なので、新年度の内定者の受講時期も合わせて計画しておきます。
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職員と保護者に周知する(12月中)
職員には、犯罪事実確認の対象になること、戸籍情報の提出が必要になること、自分の申請時期は所轄庁からの割り振りで決まることを伝えます。保護者向けには、こども家庭庁のリーフレットやひな型を使って法人の取組を案内します。
こども家庭庁は、施行準備の抜け漏れを点検するための「事業者向けチェックリスト」と「義務事業者用準備ガイド(Ver.1.1)」も公開しています。上の流れで一通り手を付けたら、最後にチェックリストで確認すると安心感が違います。
7. 施行前後に起こりがちなNG行動
⚠ 犯罪事実確認書を印刷・転記して保管する
「念のため控えを」と確認書を印刷して人事ファイルに綴じたり、結果をExcelの職員台帳に転記したりするケースです。犯歴情報は原則こまもろうシステム上で扱い、別の記録・保存は極力控えることが基本とされています。保存するのであれば、情報管理規程で保存の方法と閲覧者を定めたうえで行います。人事ファイルは閲覧する人が多いため、漏えいリスクが一気に高まります。
⚠ 前科が判明した職員をすぐに解雇する
法律が求めているのは、こどもに接する業務に従事させない「防止措置」であって、解雇そのものではありません。施行時現職者に前科が判明した場合、配置転換などで対象業務から外せるかをまず検討し、それが難しい場合の対応は労働法制を踏まえた慎重な判断が求められます。こども家庭庁も「防止措置と労働法制等を踏まえた留意点」の解説動画を公開しているので、実際に判断する前に確認し、必要に応じて弁護士に相談してください。
⚠ 「不適切な行為」を決めないまま施行日を迎える
性犯罪歴の照会だけに目が向き、日々の服務規律を定めないまま施行日を迎えるパターンです。SNSで保護者や児童と個人的につながってよいのか、行事の写真を私物のスマートフォンで撮ってよいのかといった線引きがないと、疑いが生じたときに判断の基準がありません。職員側も何が問題になるのか分からず、萎縮や不信感につながります。
⚠ 新卒内定者の手続きを年明けまで放置する
4月入職の内定者について、施行日以降の交付申請を後回しにしてしまうケースです。本人の識別符号の取得、法人の申請、確認書の交付までには一定の期間がかかります。いとま特例はあくまで急な欠員などやむを得ない場合の例外なので、計画的に採用した新卒者を最初から特例頼みにするのは制度の趣旨に合いません。
⚠ 疑いの段階で当事者の職員だけで解決しようとする
こどもや保護者から相談を受けた職員が、「確証がないから」と上司に報告せず、当事者の職員に直接注意して済ませてしまうケースです。準備ガイドでは、疑いの段階から速やかに報告し、一定の権限を持つ責任者のもとで複数人のチームで対応することが示されています。最初の聴き取りの仕方を誤ると、こどもの記憶や証言に影響してしまうおそれもあります。
8. 保存版:採用書類・規程の記載例
採用書類と就業規則に加える文言のイメージです。こども家庭庁のガイドライン別紙(募集要項・求人票参考例、誓約書・内定通知書参考例、就業規則参考例)を基にした要点の整理なので、実際の書類は公式のひな型を確認のうえ、法人の規程体系に合わせて調整してください。
📄 採用書類・就業規則への追加条項(記載例)
募集要項・求人票
本求人は、こども性暴力防止法に基づく犯罪事実確認の対象となる業務です。特定性犯罪の前科がないことを採用の条件とします。採用内定後、こども家庭庁を通じた犯罪事実確認の手続き(戸籍情報の提出を含む)にご協力いただきます。
誓約書(選考時)
私は、学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律に定める特定性犯罪事実該当者に該当しないことを誓約します。
内定通知書
次のいずれかに該当する場合は、内定を取り消すことがあります。
・履歴書、誓約書その他の提出書類に、重要な経歴の詐称があった場合
・犯罪事実確認の手続きに必要な協力が得られない場合
就業規則(追加条項の要旨)
・法人が定める対象業務に従事する職員は、犯罪事実確認の手続きに協力しなければならない
・職員は、児童対象性暴力等及び法人が定める不適切な行為を行ってはならない
・法人は、こどもの安全確保のため必要がある場合、対象業務以外の業務への配置転換を命じることがある
・児童対象性暴力等を行った場合は懲戒の対象とする
就業規則の改定は、既存職員にとって労働条件の変更にあたる部分もあります。改定の理由と内容を職員に丁寧に説明し、意見聴取の記録を残しておくと、後日の説明責任を果たしやすくなります。規程類が多くて手が回らない場合は、総合ページのガイドライン欄から別紙一式(Zip形式)をまとめてダウンロードし、現行規程との差分を一覧にするところから始めると進めやすいです。
9. 実務Q&A
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派遣の保育士や、行事を手伝うボランティアも確認の対象になりますか。
雇用形態ではなく、業務の内容で判断します。派遣職員でも、保育や支援の業務に就くのであれば対象となり、確認は派遣先の事業者が行います。ボランティアも、支配性・継続性・閉鎖性の3要件に当てはまる関わり方をするなら対象になりえます。年に一度の行事を職員の目の届く範囲で手伝うといった形なら対象外と判断する余地がありますが、毎週の読み聞かせで個別にこどもと関わるような場合は対象に含めることを検討してください。
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施行時に在職している職員は、いつ申請すればいいのでしょうか。
私立の児童福祉施設等の場合、こども家庭庁が都道府県ごとに申請対象月を割り振り、所轄庁から法人に通知されます。法人が独自に時期を決めるものではありません。申請期間は令和9年4月から令和11年6月までで、その後12月24日までが猶予期間です。法人は申請対象月の4か月前を目安に職員へ時期を伝え、識別符号の取得を案内します。識別符号の有効期限は3か月なので、早く取りすぎると申請時に期限が切れてしまう点に注意してください。
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法人内の放課後児童クラブ(認定対象)でも、同じ対応をしたほうがいいですか。
認定は任意ですが、保育所などの義務対象事業と人事を一体で運用している法人であれば、規程や研修の仕組みは共通にしておくほうが現場は混乱しません。概要資料のQ&Aでも、一体的に運営・人事管理している場合は必ずしも認定は必要ないとされています。一方で、放課後児童クラブを独立した拠点で運営し専任職員を置いているなら、認定を取得して認定事業者マークを掲示することで保護者への説明がしやすくなる面もあります。概要資料では、認定の手数料は1事業3万円、申請から認定まで1〜2か月程度かかる見込みとされているので、費用と手間を見比べて判断してください。
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理事長や施設長も確認の対象になりますか。
役職ではなく、こどもと接する業務の実態で判断します。施設長が保育室に日常的に入り、こどもと個別に関わる場面があるなら対象と考えるのが自然です。理事長が法人本部の業務のみを担っていて現場に関わらないのであれば、対象外と整理できる場合もあります。経営層ほど「自分は対象外」と考えがちですが、職員に協力を求める立場として、自ら手続きを受ける姿勢を示すことは職員の納得感にも影響します。
10. 公式資料と相談窓口
こども家庭庁は、施行に向けて資料と動画を順次公開しています。法人内で準備を進める際は、次の資料を手元に置いておくと判断の拠り所になります。
- こども家庭庁「こども性暴力防止法」:法令、ガイドライン、Q&A、通知の一覧がまとまった総合ページ
- こども家庭庁「令和8年度こども性暴力防止法に関する事業者向け説明会(京都会場)」:9月3日に開催された全国説明会のアーカイブ動画。制度全体と施行準備の流れをまとめて確認できる
- こども家庭庁「こども性暴力防止法に関する解説動画・資料」:職員研修用の基礎編動画と確認テスト、こどもへの聴き取りや労働法制に関する応用編
- こども家庭庁「各種ひな型・参考例 リンク集」:規程、採用書類、保護者向け周知資料のひな型
- こども家庭庁「令和8年度 事業者向け全国説明会のご案内」:11月20日まで、オンラインを含む全国13会場で開催
制度に関する問い合わせは、こども家庭庁の専用ダイヤル(03-5357-1146、平日9時〜17時)か問い合わせフォームで受け付けています。また、民間の中小規模事業者を対象に、犯歴情報の管理について情報処理安全確保支援士に相談できる窓口も設けられています。性暴力の疑いが生じたときの対応や雇用管理について弁護士に相談できる窓口も準備中とされているので、総合ページの更新を定期的に確認しておいてください。
11. この記事のまとめ
こども性暴力防止法は、性犯罪歴の照会という目立つ仕組みに注目が集まりがちですが、実際に法人の負担が大きいのは、対象職員の線引き、規程と採用書類の整備、犯歴情報の管理体制、そして日々の服務規律づくりです。そしてどれも、施行日の12月25日を過ぎてから慌てて整えられるものではありません。
- 令和8年12月25日施行。保育所、認定こども園、児童養護施設、障害児通所支援などは義務対象
- 対象職員は職種名ではなく、支配性・継続性・閉鎖性の3要件で判断し、理由を記録に残す
- 新規採用者は従事前に確認。施行時現職者は所轄庁から通知される申請対象月に、令和11年12月24日までに確認
- 犯歴情報は原則こまもろうシステム上で扱い、閲覧者を最小限に絞る
- 「不適切な行為」と、業務上必要な身体接触の手順をセットで定める
- 前科が判明しても即解雇ではなく、対象業務から外す防止措置を労働法制に沿って検討する
この制度は、こどもを守るためのものであると同時に、疑いをかけられたときに職員を守るための仕組みでもあります。ルールが明確で、報告と調査の手順が決まっていれば、職員は安心してこどもと関われますし、保護者にも法人の姿勢を説明できます。まずは自法人の事業と職種を一覧にして、どこから手を付けるべきかを確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。

大田黒 健太 法人運営支援・施設DX推進
Kenta Ootaguro
熊本出身
法人運営支援を主として、ICTシステム導入・認可申請支援・WEBサイト企画・認定こども園移行支援等、保育事業の幅広い支援をおこなう。
社会福祉法人支援システム ココ+ナビ プロジェクトリーダー