理事長・施設長・事務長様
株式会社幼保支援 法人運営支援/施設DX推進担当の大田黒です。
理事会でよく見られるのは、その期が黒字か赤字かを示す事業活動計算書です。ですが事業活動計算書は1年間の成績、貸借対照表は法人が積み上げてきた体力と、映すものが違います。片方だけでは判断を誤りやすいんですよね。今日は2つの計算書を対で読むためのポイントを整理します。
1. 事業活動計算書と貸借対照表、2つで見えるもの
社会福祉法人の計算書類は、事業活動計算書・貸借対照表・資金収支計算書の3つで構成されています。このうち経営状態を読むときに対になるのが、事業活動計算書と貸借対照表です。役割がはっきり違うので、まずそこを押さえてください。
事業活動計算書は、その1年間にどれだけ収益を上げ、どれだけ費用を使い、結果いくら増減差額が残ったかという1年間の流れを示します。一方の貸借対照表は、決算日という一時点で、法人が資産・負債・純資産をどれだけ持っているかという積み上がった残高を示します。今年の稼ぎを見るのが事業活動計算書、これまでの蓄積を見るのが貸借対照表、という関係ですね。
この2つはつながっています。事業活動計算書の最終行である次期繰越活動増減差額は、そのまま貸借対照表の純資産の部に積み上がっていきます。毎年の流れの結果が、少しずつ蓄積に反映されていく仕組みです。だからこそ、どちらか片方だけを見ても法人の姿は半分しか分かりません。
- 今期の増減差額はプラスだが、長期借入金の返済が資産の伸びに追いついていない → 貸借対照表を見て初めて分かる
- 単年度は赤字だが、過去の蓄積である純資産が厚く、当面の資金繰りには余裕がある → 貸借対照表の純資産・流動資産で判断する
- 本業のサービス活動は堅調だが、支払利息の負担で経常段階の差額が細っている → 事業活動計算書の区分ごとの差額で見える
実際、増減差額が3年連続でプラスの法人でも、その間に大規模修繕のための長期借入金を重ねていれば、負債は着実に積み上がっています。逆に単年度が赤字でも、過去の繰越差額が厚ければ、それが一過性なのか構造的なものなのかで対応はまったく変わってきます。2つの計算書を並べて、初めてこうした判断ができます。
2. 事業活動計算書の構造と3つの区分
事業活動計算書は「収益から費用を引いて差額を出すだけの表」に見えますが、実際は性質の違う3つの区分に分かれていて、それぞれの段階で差額が計算されます。ここを分けて読めるかどうかで、法人の稼ぐ力の見え方が変わります。
- サービス活動増減の部:介護・保育・障害福祉などの本業に関する収益と費用。人件費・事業費・事務費・減価償却費などがここに入り、差し引いた結果がサービス活動増減差額。法人の本業の稼ぐ力を最もよく表す。
- サービス活動外増減の部:受取利息配当金や支払利息など、本業以外の財務的な収益・費用。サービス活動増減差額にこれを加減したものが経常増減差額。
- 特別増減の部:施設整備等補助金収益、固定資産の売却損益、国庫補助金等特別積立金の積立額・取崩額など、その期に特別に発生したもの。ここまで反映して当期活動増減差額、さらに前期繰越額を足して最終行の次期繰越活動増減差額が出る。
読むときのポイントは、どの段階の差額でプラス・マイナスが決まっているかを見ることです。たとえば最終の当期活動増減差額が大きくプラスでも、その正体が特別増減の部にある施設整備等補助金収益という一時的なものだった場合、本業を表すサービス活動増減差額はマイナス、ということがあり得ます。逆に本業はしっかりプラスなのに、支払利息が重くて経常段階で差額が細っているなら、借入負担が経営を圧迫しているサインです。
「今期は黒字でした」で議論を終えず、その黒字が本業から出たものなのか、財務や特別要因から出たものなのかを区分ごとに確認する。これだけで理事会の決算報告の解像度が上がります。
3. 貸借対照表の構造と3つのブロック
次に貸借対照表です。左側(借方)に資産の運用形態、右側(貸方)に負債・純資産という調達源泉を示します。左右の合計は必ず一致し、右側を見れば「どこからお金を集めたか」、左側を見れば「集めたお金を今どんな形にしているか」が分かります。構造は次の3ブロックです。
- 資産の部(左側):流動資産(現金・預金など1年以内に現金化できるもの)と固定資産(建物・土地・基本財産など長期にわたって使うもの)に分かれる。
- 負債の部(右側・上段):流動負債(1年以内に支払う短期の借入金・未払金など)と固定負債(長期借入金など)に分かれる。返済義務のあるお金。
- 純資産の部(右側・下段):基本金、国庫補助金等特別積立金、その他の積立金、繰越活動増減差額などで構成され、返済義務のない自己資本にあたる。
負債の部を見るときは、流動負債と固定負債の中身の違いにも注目してください。設備資金の長期借入金は固定負債に計上されますが、その借入金のうち向こう1年以内に返済期日が来る部分は、流動負債の「1年以内返済予定設備資金借入金」として振り替えられます。この振り替えを見落とすと、短期の資金繰りの厳しさを過小評価してしまいます。
そして純資産の部の最後にある次期繰越活動増減差額は、前のセクションで見た事業活動計算書の最終行と同じ数字です。事業活動計算書が1年かけて出した結果が、ここで法人の蓄積として計上される。2つの計算書は、この行でつながっています。
4. 純資産と繰越差額、2つの計算書のつながり
純資産の部は科目が並んでいるだけで意味が伝わりにくい部分です。次の順番で見ていくと、法人の成り立ちと、事業活動計算書とのつながりが分かります。
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基本金の額を確認する
法人設立時の寄付金など、事業の元手になった資産の額。法人の出発点そのものであり、通常は取り崩されない。
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国庫補助金等特別積立金の残高を確認する
施設整備等で受けた補助金の額を積み立てたもの。対応する固定資産の減価償却に合わせて年々取り崩され、その取崩額は事業活動計算書の特別増減の部にも表れる。施設の古さの目安にもなる。
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次期繰越活動増減差額の推移を確認する
事業活動計算書の最終行がそのまま積み上がった、経営努力による蓄積。過去数年分を並べると、毎年の成績が法人の体力にどう反映されてきたかが分かる。
この3つを個別に見るだけでなく、「基本金・国庫補助という基本的には動かさないお金」と「次期繰越活動増減差額という経営努力で積み上げたお金」を分けて捉えると、純資産の中身がぐっと理解しやすくなります。そのうえで繰越差額が毎年どう動いてきたかを事業活動計算書とセットで追えば、法人の実力が立体的に見えてきます。
5. 国庫補助金等特別積立金の取崩しで注意点
⚠ 附属明細書と事業活動計算書の不一致を放置しない
国庫補助金等特別積立金は、対応する固定資産の減価償却費に合わせて取り崩し、事業活動計算書上の費用負担を軽くする仕組みです。この取崩し額が、附属明細書上の金額と事業活動計算書上の金額とで一致していないケースが、指導監査でしばしば指摘されます。原因の多くは、即時取崩しの対象範囲の理解不足です。数字が合っていることを毎期確認する仕組みを、決算チェックリストに組み込んでおいてください。
この論点は、貸借対照表に載る積立金の残高と、事業活動計算書に載る取崩額の両方にまたがるところがポイントです。もう1つ見落とされがちなのが、土地に対する補助金の扱いで、取崩しの対象になる範囲も、施設整備の補助金だけとは限りません。設備資金の借入金元金に対する補助金や、無償・低額で譲渡を受けた固定資産なども積立の対象になり得ます。建物と違って土地は減価償却をしないため、土地取得に充てられた補助金相当額は取り崩されず、将来にわたって計上され続けます。特に問題はありませんが、自治体からの無償譲渡された土地などが有る場合には国庫補助金を受けていないのに決算書にずっと残っているという現象が起こりえます。
6. 経営指標の計算式と目安
2つの計算書がそれぞれ何を映すかが分かったら、そこから計算する指標も対で押さえておくと便利です。事業活動計算書から見る「稼ぐ力」の指標と、貸借対照表から見る「体力」の指標に分かれます。
📄 理事会資料に載せる4つの指標
サービス活動増減差額率 = サービス活動増減差額 ÷ サービス活動収益計 × 100
事業活動計算書から算出。本業でどれだけ差額を残せているかを示す、稼ぐ力の基本指標。
経常増減差額率 = 経常増減差額 ÷ サービス活動収益計 × 100
同じく事業活動計算書から。支払利息など財務面まで含めた通常の収益力。本業の差額率との開きを見ると、借入負担の重さが分かる。
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
貸借対照表から算出。1年以内の支払い能力を示す。100%を大きく下回っている場合は、短期の資金繰りに注意が必要というサイン。
自己資本比率 = 純資産 ÷ 総資産 × 100
同じく貸借対照表から。返済義務のないお金で経営基盤をどれだけ支えられているかを示す。
この4つを毎期の理事会資料に定点観測として載せておくと、単年度の増減差額だけでは見えない、稼ぐ力と体力の両面の変化に早く気づけます。数値そのものより、前年・前々年からの推移を並べて見ることの方が実務上は重要です。水準の目安は事業類型や施設の新しさで変わるので、自法人の過去数年と比べるところから始めてください。
あわせて総資産の推移も並べておくと、法人全体の事業規模の伸びが見えてきます。総資産が増えているのに自己資本比率が下がっているなら、その伸びの多くを借入で賄っているという意味です。逆に総資産の伸びが緩やかでも自己資本比率が上がっているなら、地道な黒字の積み上げで足腰が強くなっているということになります。
7. 実務Q&A
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事業活動計算書と貸借対照表は、どちらを先に見るべきですか。
順番より、必ず両方をセットで見ることが大切です。実務上は、まず事業活動計算書でどの区分の差額でプラス・マイナスが決まったかを確認し、そのうえで貸借対照表の純資産・負債でその結果が蓄積にどう表れたかを追う流れが分かりやすいですね。片方だけで判断すると、黒字なのに資金繰りが苦しい、赤字だが体力は十分、といった実態を見誤ります。
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当期活動増減差額はプラスなのに、本業は苦しいと言われました。どこを見ればよいですか。
事業活動計算書のサービス活動増減の部を見てください。最終の当期活動増減差額がプラスでも、その中身が特別増減の部の施設整備等補助金収益などの一時的なものだと、本業を表すサービス活動増減差額はマイナス、ということがあります。段階ごとの差額を分けて読むのがポイントです。
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自己資本比率が下がっていくのは、必ずしも悪いことなのですか。
一概に悪いとは言えません。施設整備のために借入を行った直後は、負債が増えて自己資本比率が一時的に下がるのが自然です。重要なのは、その後の年度で計画通りに返済が進み、比率が回復基調にあるかどうか。下がった年だけを見るのではなく、複数年の推移で判断してください。
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国庫補助金等特別積立金は、いつまで取り崩し続けるのですか。
対応する固定資産の減価償却が終わるまでです。ただし、固定資産が耐用年数を迎えても備忘価額(1円)を残すのと同様に、国庫補助金等特別積立金もその備忘価額に対応する額(通常は1円)を残して取り崩しを止めます。 完全に0円になるのは、その固定資産を廃棄や売却などで除却した時です。また、土地に対応する部分は取り崩しの対象外です。
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流動比率が100%を切っていたら、すぐに資金繰りが破綻するのですか。
即座に破綻するわけではありませんが、注意信号ではあります。100%を切っているということは、1年以内に支払うべき負債の額が、1年以内に現金化できる資産の額を上回っている状態です。金融機関からの追加融資や区分間繰入れの活用余地なども含めて、資金繰り計画を早めに見直す材料にしてください。
8. この記事のまとめ
事業活動計算書はその年の状態を指し、貸借対照表は法人が生まれてから積み上げてきた証明書です。前者では区分ごとの差額でどこが稼いでいるかを、後者では流動比率で短期の支払い能力、自己資本比率で長期の体力を確認する。この2つを対で並べるだけで、単年度の黒字・赤字に一喜一憂する経営から一歩進めます。
次の理事会では、事業活動計算書でサービス活動・経常・特別のどの段階で差額が決まったかを確認したあと、貸借対照表の純資産の部にも目を通してみてください。1年間の成績が法人の蓄積にどう積み上がっているか、本当の姿が見えてきます。
単年度の数字に一喜一憂するのではなく、複数年の2つの計算書を並べて眺める習慣をつけると、施設整備や人材投資といった大きな意思決定を、より根拠を持って判断できるようになります。

大田黒 健太 法人運営支援・施設DX推進
Kenta Ootaguro
熊本出身
法人運営支援を主として、ICTシステム導入・認可申請支援・WEBサイト企画・認定こども園移行支援等、保育事業の幅広い支援をおこなう。
社会福祉法人支援システム ココ+ナビ プロジェクトリーダー